真・祈りの巫女163
 守護の巫女と守りの長老を前に、あたしは今までの経緯を話し始めていた。リョウを失って悲しんだこと。その悲しみがいつしか憎しみに変わっていったこと。それでも諦めきれなくて、神殿で祈りを捧げながら「リョウを返して欲しい」と思ってしまったこと。その心の叫びに、神様は答えてくれた。神様はあたしに「願いをかなえる」と言って、怪我をしたリョウを神殿へ連れてきてくれたんだ。
 あたしを見てあたしの名前を呼んで、そのあと気を失ってしまったリョウを、タキとランドが協力して家まで運んでくれた。それから丸1日リョウには意識がなかった。でも、目が覚めたとき、リョウは記憶を失っていたんだ。最初リョウはあたしを警戒していたけど、タキと話してからは普通に会話してくれるようになった。そして、これはタキも知らないことだったけど、リョウはミイを見て「似てる人を知ってたような気がした」って言ったんだ。
 あたしが話している間、守護の巫女も守りの長老も、ときどき合いの手を入れるほかはほとんど黙ったままだった。そこまで話したあと、しばらくの沈黙があって、守護の巫女がようやく口を開いたの。
「問題がいくつかあるわね。……祈りの巫女、私の、守護の巫女の役割がどういうものか、あなたには判る?」
 それは誰でも知っていることで、今更改めて考えるまでもないことだった。
「村を守って、村の平和を保つことだわ」
「ええ、そうよ。私は現在においてはこの村を守って、将来にわたって村の平和を保たなければならない。これから先私が死んで、新しい守護の巫女が引き継いでいくけれど、今の私にはその先の未来にも責任があるの。今日を乗り切ればそれでいいというものではないわ。それは、判ってくれるわね、祈りの巫女」
 あたしはそこまで守護の巫女の役割について考えたことはなかった。新たな驚きがあったけど、でもそれを口に出すことはしないで、小さくうなずくだけにとどめた。
「問題の1つは、これは1番大きな問題と言っていいのだけど、あなたが自分の願いを神様に祈ってしまったことだわ。神殿が祈りの巫女に自分の祈りを禁じているのは、祈りの巫女がその力を私欲に利用するのを防ぐため。自分のためになされた祈りは、他人のためになされる祈りよりも、遥かに大きな力を発揮する。そんな大きな力を手にした人間ほど危険なものはないのよ」