真・祈りの巫女162
 神殿までの坂道を上がりながら、タキは少し緊張した面持ちで話してくれた。
「昨日宿舎に戻ってすぐに、オレは守護の巫女に呼び出されてね。祈りの巫女のことをいろいろ訊かれたんだ。祈りの巫女は前回の会議の日は宿舎に帰ってない。そのこと自体はまあ、恋人を亡くした直後でもあるし、守護の巫女も黙認してたんだ。オレがついてることも判ってたから、特に居場所を詮索することもしないでオレに任せてくれていた。だけど、そのあと祈りの巫女はいっこうに帰ってこないし、オレも薬や包帯、食料なんかを調達するようになっただろう? そのことが原因で、神官たちの間で変な憶測が飛び交うようになったらしいんだ。
 昨日の午前中に呼び出されたときには、いずれすべてを話すから少し待って欲しいって言って、守護の巫女もそれ以上は訊かないでくれたんだけど、夜はもうそんな曖昧な対応じゃきかなくてね。詳しくは言ってくれなかったんだけど、どうもオレが薬を調達していることで、祈りの巫女が自殺を図った、なんて噂も出始めたらしい。だから……君に相談しないで悪かったんだけど、オレは昨日守護の巫女に、狩人のリョウが生き返ったことを話したんだ」
 聞きながらあたしは、タキがあたしのことでずっとたいへんな苦労をしていたことを知った。きっと、今話してくれた以上に、タキはいろんな人にいろんなことを言われてきたのだろう。そのたびにずっとごまかしてるのって、ものすごく辛いことに違いないよ。でも、タキはあたしやリョウの前では、そんな素振りは少しも見せなかったんだ。
「ごめんなさいタキ。本当に迷惑をかけちゃって」
「オレのことはいいんだけどね。でも、そんな訳で守護の巫女はすでにリョウのことを知ってるんだ。なにしろことがことだから、守護の巫女も騒ぎを大きくしたくないって言ってね。祈りの巫女にはできるだけ誰にも姿を見せないで、直接守りの長老宿舎にくるように伝えて欲しいって言われたんだ。話も守護の巫女と守りの長老の2人だけで聞くって ―― 」
 森の道を出た時、タキは神官宿舎の裏手に回り込んで、長老宿舎の裏口へあたしを連れて行ったの。あたしはそこに裏口があることは知ってたけど、今までここから出入りしたことなんてなかったんだ。タキがノックをすると、ややあって守護の巫女が扉を開けてくれた。あたしを見て困惑の表情を浮かべた守護の巫女に、あたしは自分がどんな表情をしたらいいのか判らずにいた。