真・祈りの巫女160
 リョウは少し苛立った様子で、早口に言った。
「それで。俺を殺した影とやらはどうした。まだ村を襲ってるのか?」
「影の1つはリョウが殺して、今は村の草原に死骸があるわ。でも、影はそれ1つだけじゃないの。ここ数日は襲ってきてないけど、運命の巫女は影がまた襲ってくるはずだと言ってた。あたしはしばらく神殿へは行ってないから、そのあとどんな予言がされたのかは知らないのだけど」
 リョウはどこか1点を見つめて、あたしの話を深く考えているように見えた。でも、あたしにはリョウが何を考えているのか、ぜんぜん判らなかったの。タキはリョウが自分を守ることだけ考えているって言ってた。それを思い出したから、あたしは更に付け加えた。
「リョウ、ここは村とはずいぶん離れているし、森の中に1軒だけぽつんと建ててある家だから、また影が襲ってきても安全なはずよ。それに、影はいつも西の森の沼からくるの。だから村の東側ではほとんど被害も出ていないわ」
 あたしの話でリョウが納得できたようには見えなかった。それでも、1つ息をついて、リョウは話題を変えた。
「……俺はどうやって生き返ったんだ。まさか、1度殺された死体が動いた訳じゃないだろ?」
 リョウの質問で、あたしはためらった。それに答えることは、あたしが犯した罪をリョウに知られてしまうことだから。でも、リョウには本当のことを言わなければならないと思ったの。たとえ1度でもあたしがリョウに嘘をついてしまったら、それきりリョウの傍にいる資格をなくしてしまうような気がしたから。
「……あたし、リョウを失ったことに耐えられなかった。これから先ずっとリョウがいない時間を生きていかなければならないって、そのことに耐えられなかったの。だからあたし、神殿の禁を破って、神様に祈ったの。リョウを返して欲しい、って」
「……」
「神様はあたしの願いを聞き入れて、神殿にリョウをつれてきてくださったの。怪我をしていて、記憶もなかったけど、あたしは嬉しかった。だからリョウのためならなんでもするわ。……これからね、あたしは神殿へ行って、このことを守護の巫女と守りの長老に話さなければならないの。あたしは罰を受けるかもしれない。でもリョウには指1本触れさせないわ」