真・祈りの巫女157
 あたしが進まない食事をようやく終えたあと、タキはまた数回分の薬の調合を始めた。リョウが目覚めたら少し話をしたいとランドは言ってたけど、リョウはしばらく目覚める気配がなかったから、その日はけっきょく会わないままで帰っていったの。ランドが帰るときにあたしは家の外まで見送りに出た。坂道につけた階段の前で、ランドは思い出したように振り返って言った。
「ミイがな、リョウの持ち物を入れた箱から変な音がするって不気味がってる。オレは直接聞いてないんだが」
「変な音? 生き物がいるようなの?」
「いや、生き物の気配がある訳じゃない。ミイが言うには、トコルが作った1番高い音の出る笛の音をもっと高くしたような音で、とつぜん鳴り出して、しばらく鳴ったあとまたとつぜん静かになったらしい。音楽のようだとも耳鳴りのようだとも言ってたな。気味が悪かったから中身は確かめなかったらしいが」
 その場ではあたしは何も答えることができなくて、ランドもそれ以上は何も言わずに、明日ミイをよこすとだけ言って帰っていった。
 タキも薬を作り終わったあとは宿舎に帰ってしまったから、あたしは1人でリョウの目覚めを待っていた。何度目かに部屋を覗いた時、目覚めたリョウが身体を起こそうとしているのを見て、あたしは手伝ったの。リョウはもうあたしの手を振り払うことはしなかった。
「リョウ、目が覚めたのね。よかった。今、食事を温めるわ」
「……いや、このままでいい」
 あたしは既に冷たくなってしまったおかゆをすくって、リョウの口元に持っていった。リョウは何も言わずに食べてくれる。リョウが食事をしている間はあたしも黙ったままで、時々水を飲ませるときに声をかけるくらいだった。ずいぶん時間をかけたけど、用意した食事をリョウはぜんぶ平らげてくれたの。人心地ついたリョウはまたベッドに横たわって、静かに目を閉じた。
「明かりを消してくれ。朝まで眠る」
「判ったわ。……あたしは隣の部屋にいるから、なにかあったら声をかけてね。ここに薬を置いていくわ」
「ああ。……ここは静かだな ―― 」
 あたしはできるだけ音を立てないように、リョウの眠りを妨げないように、寝室を出た。