真・祈りの巫女155
 ランドに異論がないことを確認するように、タキも1回うなずいて、話を続けたの。
「今の段階でリョウは、祈りの巫女や村の人間に危害を加える気はないと明言していた。これは信じていいと思う。なぜなら、リョウは今動くことができないし、ここでオレたちがリョウを見捨てたら、悪くすれば近い将来餓死する可能性もあるからね。リョウにとって今は身体を治すことが第1のはずだ。ということは、身体が治るまでのリョウはこの村で1番安全な人間だということになる」
「……リョウはいつ治るんだ。あれはそんなに長患いをするような怪我じゃないぞ」
「3日もすれば動けるようになるだろうね。だけど、その3日間が祈りの巫女にとって重要な時期になる。実際、リョウのことはもう隠しようがないんだ。明日には守護の巫女に報告しなければ、祈りの巫女の立場はかなり悪くなると思っていいよ」
 タキはここと神殿との間を行き来しているから、神殿が今どんな状態か、あたしたちの中では1番よく判ってるんだ。……あたしの立場なんかほんとはどうでもいいの。だけど、あたしの立場が悪くなればなるほど、リョウが疑われる確率も上がってしまう。
「そんなに切羽詰ってるのか? なんとか時間を稼げないのかよ。せめて奴の正体が判るまで」
「報告をあとに延ばすのは限界だ。だからこうなったらもう、リョウの正体については神殿全体で考えていく方がいい。リョウが万が一、村に対して悪事を働くような人間だとしたら、むしろ神殿に任せてしまった方が祈りの巫女の立場を守るには有利なんだ。神殿が最終的にどんな結論を出すにしても、その決定までの時間を稼げば稼ぐほど、事態は祈りの巫女の手を離れてくれる。……だからそのためにも、今のリョウには記憶を失った狩人のリョウでいてもらった方がいいんだ」
 その時あたしは、タキがこの話を始めてから1度もあたしの顔を見ていないことに気がついた。
 タキ、もしかしてあなたも、リョウが本物だってことを信じていないの……?
「リョウの記憶を戻すわ! そうすればみんな信じてくれる。だってリョウは本物のリョウなんだもん。リョウはぜったい影の手先なんかじゃないわ!」
 あたしの声に2人はハッとして振り返った。あたしは、自分が大きな声を出してしまったことにすら気づかなかった。
「祈りの巫女、オレもリョウが影の手先だとは思ってないよ。……むしろ心の底から、彼が本物のリョウであって欲しいと願ってる」