真・祈りの巫女156
 タキの表情は穏やかで、微笑さえ浮かべていたけれど、あたしはその顔に哀れみのようなものを感じた。タキは、リョウを影の手先だとは思っていないけど、あのリョウが本物だとも思ってないんだ。でも、タキはリョウのことをあまり知らないんだもん。あたしがリョウにかつての面影を感じるほどには、タキにはリョウの思い出がない。だから別人のように見えてしまってもしょうがないんだ。
 リョウの記憶は必ず戻る。記憶が戻れば、誰もリョウが別人だなんて思わないよ。あたしは1日も早くリョウの記憶を戻さなければならないんだ。それがリョウを守ることにもつながるんだから。
「……なるほどな。それが今のおまえにできることか」
 そのランドの言葉はタキに向けたものだった。タキも神妙に答える。
「祈りの巫女が死んだら村は終わりだ。少なくともオレはそう思ってる。だからこそ、神様が遣わしたあのリョウが、祈りの巫女に災いをなす者だとも思えないんだよ。
 ランド、あなたも信じて欲しい。リョウは記憶を失っているけど、間違いなく祈りの巫女の婚約者だ。……オレたちはそれを信じるしかないんだ」
 ランドの中でどんな感情が動いたのか、あたしには判らなかった。やがて顔を上げたとき、ランドの表情には明らかに覚悟のようなものが浮かんでいたの。
「……明日の朝早くミイをここによこす。リョウの世話はミイに任せておけば大丈夫だ。ユーナ、おまえはミイと入れ替わりに神殿に戻って、その報告とやらを済ませろ」
 思いがけないことを言われて、あたしの動きは止まってしまった。
「ランド、ミイというのは確かあなたの……」
「ああ! もったいないがこの際しかたがないだろ! オレは自分の仕事で手一杯だし、おまえもユーナも神殿のことでリョウの世話どころじゃないだろうし、ほかに信用できる人間はいねえ。……それに、万が一リョウと名乗ったあいつがミイになにかするような人間だったら、近いうちに村全体が滅びるのは間違いなさそうだからな。同じことだ」