真・祈りの巫女154
「疑わしいこと? ランド、リョウはおかしなことは何も言ってないよ。自分を守るために当然のことを言ってただけだ」
「だったらどうして恋人のユーナに対してそれほど警戒するんだよ」
「祈りの巫女が自分の恋人だったことを忘れてるんだ。初めて見る人間を警戒して何がおかしいんだ?」
「そりゃあな、初めて見たのがオレやおまえだったら、確かに警戒したかもしれねえ。だけどユーナだぞ? おまえ、もしも自分が記憶喪失になって、目の前にユーナがいたとしたら、おまえならこいつを警戒できるか? こう言っちゃなんだが、ユーナは非力で無害な普通の女だ。しかもリョウのことを本気で心配してる。いくら記憶がないからって、どうしてそういう奴を警戒したりできるんだよ」
「身体が万全の状態なら警戒するほどのことはないだろうね。だけどリョウは怪我をして動けないでいる。万が一にでも祈りの巫女がリョウに危害を加えようとしたらできないことはないよ」
「理屈を言えば確かにそうだろうよ。だがユーナが無害だってことは本能的に判るだろ! たとえ記憶がなくたってなあ、リョウがユーナを警戒するなんてことは万が一にも……」
「お願いやめて! リョウが目を覚ましちゃう」
 あたし、とうとう耐え切れなくて、2人の口論に口を挟んでいた。しゃべっているうちにランドはどんどん興奮してきて、声が大きくなっていたから。リョウの眠りを妨げることも心配だったけど、話してる内容が内容だったから、リョウに聞かれるのも嫌だったの。あたし、ずいぶん心配そうな顔をしてたのかな。振り返ったランドはハッとしていくぶんうろたえていた。
「ああ、悪かった。つい声が大きくなっちまった」
「ごめん、祈りの巫女。オレも興奮しちゃって」
 2人はそれきり少しの間沈黙していたけど、やがてタキの方が口を開いた。
「ランド、見解の違いばかり指摘しあっててもしょうがないな。ひとまず共通項を見つけよう。……オレは、祈りの巫女の立場を守りたいと思ってる。それに異論はないか?」
 ランドはまだ突然の話題の変化についていけないようで、声に出さずうなずくだけにとどめた。