真・祈りの巫女153
 ランド、リョウが記憶喪失だって、信じていないの? だって、あの人はリョウなの。そのリョウがあたしのことを判らないんだから、記憶がないに決まってるよ。もしも記憶があったら、リョウはぜったいあたしをあんな目で見たりしないもの。
 あたしの困惑をよそに、タキはランドに不自然なほどの笑顔を向けていった。
「あのリョウが別人だとでも言うのか? そんなはずはないよ。どこから見てもあれはリョウ本人だし、少なくともオレたちを見て誰だか判らないのだとしたら、記憶喪失になったとでも思うしかない」
「どうして本人だって言えるんだ! まったくの別人ならオレたちが誰か判らなくてあたりまえだろうが!」
「忘れたのか? リョウは神殿で祈りの巫女を見たとき、彼女の名前を呼んだんだ。それに、オレが彼に名前を尋ねた時、はっきりと自分はリョウだと言った。これ以上の確かな証拠はないよ」
 ランドは神殿での事を忘れてたみたい。とっさに反論できなくて、黙り込んでしまった。神殿で最初にリョウを見つけたあの時、あたしは自分の名前を名乗ったりしなかったもの。あの時のリョウにはちゃんと記憶があったんだ。少なくとも、あたしを見てユーナだと判るだけの記憶は持っていたの。そのあとの高熱ですべてを忘れてしまったのだとしても。
「記憶喪失にもいろいろある。本当に何もかも忘れて言葉すらしゃべれなくなることもあるだろうし、なにか特定の記憶だけをなくすこともあるし、リョウのように言葉や判断力を残したまま、それ以外の事をすべて忘れてしまう場合もあるだろう。今のリョウは自分を守る意識だけが強く出ていて、そのためだけに行動しているように見える。それはもしかしたら、リョウが狩人だったことが関係あるのかもしれないよ。リョウが言ってた「俺は人間と戦う気はない」っていう言葉も、リョウがふだん動物たちと戦う立場だったから出た言葉のように思えるしね」
 あたしはタキの言葉に改めて納得していたけれど、ランドは違ったみたい。更に表情を硬くして言ったんだ。
「……やっぱり、神殿の人間は信用できねえな。おまえはリョウが本人だって、その前提に事実をこじつけてるだけだ。確かにリョウが最初にユーナの名前を呼んだことは認める。そいつも疑えばきりがないが、まあ、ユーナがそうだと言うんだから事実なんだろう。だけど目が覚めてからの奴の行動は疑わしいことだらけだ。それに気づかないおまえじゃないだろう!」