真・祈りの巫女152
 リョウの痛みと緊張はほとんど極限状態だったみたい。タキはランドを連れて部屋を出て行って、あたしは食事を持ってきて、リョウに水と薬を飲ませたけど、それ以上身体を起こしている気力がリョウにはなかったの。目を閉じてぐったりしてしまったリョウに声をかけると、さっきまでよりはずっと穏やかな口調で答えが返ってきた。
「目が覚めたら食べる。そこに置いて部屋を出て行ってくれないか」
「……判ったわ。でも、何かあったら遠慮しないですぐに呼んでね。真夜中でも飛んでくるわ。……灯りは?」
「このままでいい」
 名残惜しくて何度も振り返りながらドアの前まで行ったけど、リョウはそれきり少しも動かなかったから、あたしも諦めて部屋を出た。食卓ではタキとランドが声を潜めて話をしていて、どうやら今までの経緯を簡単に報告してたみたい。あたしの姿に気づいてタキは席を立った。
「あれ? リョウは食事しないでいいの?」
 そう言いながらあたしの分のお茶を用意してくれる。あたしは自分の食事が用意された席に腰掛けながら答えた。
「痛みが引くまでは無理みたい。一眠りするって追い出されちゃった」
「そう……。でもま、眠る気になったのなら少しは進歩したね。祈りの巫女の真心が通じたんだよ」
「ううん、あたしの力じゃないわ。……あたしはタキのようにリョウに話をさせることすらできなかったんだもの」
 あたしはリョウのために何もできなかった。リョウが心を開いたのだとしたら、タキが冷静にリョウの話を聞いたからだ。リョウと対等の立場にたって、リョウの質問を引き出して、それに答えてあげたから。
「祈りの巫女はそのままでいいんだよ。婚約者なんだから。リョウの記憶が1日でも早く戻るようにいろいろ話し掛けてあげて」
 その時、今までずっと顔を伏せていたランドが、ちょっと怒ったような表情で顔を上げたの。
「おい、タキ。おまえ、ユーナの言うことを本当に信じてるのか? さっきのリョウを見て記憶喪失だと本気で思うのか?」
 ランドの言葉に驚いて、あたしは食事の手を止めてしまった。