真・祈りの巫女151
 2人のやり取りを聞きながら、あたしはだんだん背筋が寒くなってきたような気がした。2人の会話はすごく静かで、受け答えも穏やかなのに、しだいに空気が張り詰めてくるの。それはまるで、以前リョウが話してくれた、獲物と狩人の真剣勝負を思わせる。静寂の中にも緊張感があって、あたしには2人が会話をしながら戦っているように見えたんだ。
 不意にうしろから肩を叩かれて、あたしは悲鳴を上げそうになったの。あたしのうしろにはいつの間にかランドが立っていて、リョウとタキの様子をじっと見つめていたから。
「 ―― これはリョウにとってもオレたちにとっても、1番重要なことだ。将来、現状の変化で君の意思は変わるかもしれないけど、ひとまずそのことは考えに入れなくていい。現時点で、リョウがオレたちに危害を加える意思があるかどうか、それを教えて欲しいんだ。もしも教える意思がないならそう答えてくれればいい」
 リョウはしばらく沈黙していた。タキのことを睨みつけるように見て、まるで呼吸も、瞬きすらしていないみたい。そのまま表情を崩さずに、リョウは口を開いた。
「そっちはどうなんだ。俺をどうするつもりだ」
「リョウの答えによるね。リョウにその意思がなければオレは、少なくともオレ個人としては、リョウに一切の危害を加える気はない。村の神官としてリョウの傷を癒す手助けをする用意もある。ただ、もし万が一リョウにその意思があるならばその限りじゃない」
 また、少しの間睨み合いが続いたけど、今度はそれほど長い時間は待たずに、リョウが溜めていた息を吐いた。
「俺は人間と戦う気はない。だが、そっちから手を出してくるなら話は別だ。自分の身は守らせてもらう」
「判った。 ―― リョウ、君が正直な人間でよかったよ」
 タキが椅子から立ち上がって、いくぶん場の緊張が解けたから、うしろで見ていたあたしもほっとしていた。その時、リョウが痛みをこらえながらもタキに右手を差し出したの。タキはちょっとだけ戸惑った様子を見せて、でも同じようにリョウに右手を差し出して握手したんだ。その握手のあと、リョウの表情にも明らかに安堵の色が見えた。
「さ、祈りの巫女。ひとまず彼に水と、食事をあげてくれないか? 聞きたいことはまだたくさんあるけど、残りは明日に回そう」