真・祈りの巫女150
 その部屋のドアをタキがノックしても、中からの返事はなかった。タキはそれほど気にならないみたいで、ごく普通の動作でドアを開けて、部屋に入ったの。ベッドのリョウはさっきまでとまったく同じ姿勢で横たわっていた。視線はこちらに向けたままで、タキを見て少しだけ警戒を強めたみたい。
 タキは部屋にあった椅子を引いてきて、リョウの枕もとに腰掛けた。
「オレが誰だか判る?」
 リョウは口を閉ざしていたけれど、それでもタキが辛抱強く待っていると、やがて低い声でボソッと言った。
「誰だ」
「この村の神官で、今は祈りの巫女の世話係でもあるタキ。あなたは? 名前はなんていうんだ?」
「……リョウだ」
 あたしは少なからず驚いていた。リョウは警戒は解いてなかったけど、タキの質問にはちゃんと答えていたから。あたしにはぜんぜん答えてくれなかったのに。
「それじゃ、リョウと呼ばせてもらうよ。オレのことはタキでかまわない。これからいくつか質問するけど、答えられる質問には正直に答えて欲しい。リョウの方から質問があればオレも正直に答えると約束するよ」
「……ここはどこだ」
 リョウは、あたしにしたのと同じ質問を繰り返した。
「ここ? ここは山間にあるオレたちの村の、東の山の中腹にある神殿から少し下った森の中にある、狩人のリョウが建てた家の寝室だ。いずれは婚約者である祈りの巫女ユーナが彼と一緒に住むことになる。これで質問の答えになったかな」
「……」
「なら、今度はこちらの番だ。……リョウ、君はそこにいる祈りの巫女、彼女はユーナと名乗ったと思うけど、その彼女に危害を加える意思があるか? もしくは、彼女以外の村の人間に危害を加える意思があるか?」