真・祈りの巫女149
 タキと二人で台所に立って、リョウとあたしの夕食を作りながら、あたしはリョウが目覚めてからの大まかなことをタキに話し終えていた。リョウが記憶を失ってしまったこと。リョウがあたしを警戒していて、今は一言もしゃべってくれないこと。薬も水も飲むのを拒否して、そうとう痛みがあるらしいこと。リョウのためのおかゆを作り終えたタキは、少し冷ますためにそのままテーブルに置いた。
「その話だけではまだはっきり判らないね。リョウにどの程度の記憶があるのか、すべての記憶がないのならいったいどの程度の理解力があるのか。祈りの巫女は子供のような印象を受けたって言ったけど、頭の中身まで子供なのかな。それによって神殿の対応もずいぶん変わってくるけど」
 タキはランドとは違って、リョウが偽者だとか、影の手先だとかって可能性はあまり考えてないみたい。さっきも、薬が切れるのが判ってたのに、あたしとリョウを2人っきりにしてくれたんだ。もしあの場にランドがいたら、きっとなにがなんでもリョウが目覚める瞬間に立ち会おうとしていただろう。もしかしたらあたしを遠ざけようとすらしたかもしれない。
「リョウの話し方には子供っぽさは感じなかったわ。ただ、大人になってからのリョウはあんな風に人を警戒したりしなかったの」
「そう? オレはごく最近でもかなりリョウに警戒されてた気がするけどね。たまに関所で顔を合わせることもあったけど、けっこう無愛想だったよ」
 タキの話し振りで、あたしはタキがリョウに持っている印象がずいぶんあたしと違うことに気がついた。あたしだったら、間違ってもリョウに無愛想だなんて形容はつけないもの。もしかしたらリョウって、あたしが思ってた以上にタキに嫉妬してたのかもしれない。
「まあ、とりあえずリョウと話してみよう。早いうちに確かめておかなければならないこともあるし。祈りの巫女、もしよかったら夕食を食べながら待っててもいいよ」
「そんなの……あたしも一緒にいるわ。話の邪魔だっていうんだったらぜったいしゃべらないから。お願い、立ち会わせて」
「邪魔ってことはないよ。でも、できるなら口を挟まないでくれる? 話の持って行き方によっては、祈りの巫女には不本意に思えることがあるかもしれないから」
 タキがそう言って表情を引き締めたから、あたしは無心でうなずくしかなかった。