真・祈りの巫女146
 リョウの目が驚きに見開かれていた。まるで、あたしのことを初めて見る人のように見るの。嘘だよね、リョウ。今は混乱してるだけで、すぐにあたしのことを思い出してくれるよね。
「そうだ、リョウ。傷がまだ痛むんでしょう? さっき痛み止めを調合してもらったの。これを飲んで少し休むといいわ」
 ベッドに寝たままでは薬を飲めないから、少しだけリョウの身体を起こしてあげようと思って手を伸ばした。でもその手がいきなりリョウに弾かれてしまったの。
「さわるな!」
 まさかそんな反応がかえってくるなんて思いもしなかった。だからあたしは呆然として、手を元に戻すことすら思いつかなかった。
「俺に触るな! おまえはなんだ! 俺はおまえのことなんか知らない! 俺をこんなところに閉じ込めてどうするつもりだ!」
 急に身体を動かしたせいで、リョウの息は荒くて、苦痛に眉を寄せていた。……怯えている? どうして? どうしてリョウはこんなに激しくあたしを拒絶するの……?
 どうしたらいいのか判らなかった。涙がにじんで、知らず知らずのうちにあたしは部屋を飛び出していた。食卓の椅子に崩れ落ちるように腰掛けて、テーブルに突っ伏して泣いたの。息が詰まって、だから小さなうめき声しか出せなくて。
 そのまま声を上げずに泣き続けた。一瞬の驚きが去ってしまってからも、あたしの涙は止まらなかった。あたし、いったいどうして泣いているの? リョウに手を弾かれたから? リョウにおまえなんか知らないって言われたから……?
 リョウ。優しくて、やきもちやきで、あたしが何度も大好きだって言ってるのにいつも不安がってた。傍にいて欲しいって、あたしを抱きしめてくれた。あたしまさかリョウに、俺に触るな、って、そんなこと言われるなんて思ってなかったよ。
 リョウに拒絶されるって、こんなに辛いことだったんだ。こんな、声も出せないくらいに。
 泣き続けているうちに、あたしはたぶん少しだけ落ち着いてきた。リョウの目がさめて、あたしは元のままのリョウが戻ってきてくれた気がしたけど、でもリョウは記憶を失ってたんだ。昨日の夜あたしはランドと話したの。もしもリョウが影の手先だったら、って。
 少なくとも今のリョウは影の手先なんかじゃない。たとえ記憶がなくたって、あたしはそのことの方を喜ぶべきなんだ。