真・祈りの巫女142
「君はそう言うと思ったよ。……それじゃ、オレは台所にいるから、なにかあったら声をかけて」
 あたしが振り返ってうなずくと、タキはにっこり笑って部屋を出て行った。タキに迷惑をかけていることも判ってたけど、今はリョウのことの方が心配で、あたしは再びベッドの脇にひざまずいてリョウの様子を注意深く観察していたの。リョウの眠りは安らかで、ランドが言っていたような命を落とすほどの危険はないみたい。全身の包帯は痛々しかったけど、それも徐々に回復に向かっているんだって信じることができた。
 やがて、台所の方から食欲をそそるいい匂いが漂ってくるのを感じて、それであたしは初めて気がついたの。タキが、台所でいったいなにをしていたのか。タキはあたしが目を覚ましたから、あたしのために食事を作ってくれていたんだ。
「ごめんなさいタキ! あたしも手伝うわ」
 そう叫びながら台所に駆け込んだあたしに振り返ったタキは、既に盛り付けが終わったお皿を手に持っていた。
「今呼びに行こうと思ってたところだよ。そうだね、お茶を入れてくれる?」
「ええ、判ったわ。任せて」
 そうして、タキに仕事をもらって少しだけ恥ずかしさを消化したあたしは、どうやらタキが持参してきたらしい茶葉を使って2人分のお茶を入れたの。タキがテーブルに並べた食事に、カーヤの料理を見慣れていたあたしはちょっと驚いた。数種類の野菜がたっぷり入ったスープと、ソーセージとほうれん草を一緒に炒めたおかず。なにしろ野菜の切り方がすごく大きくて不揃いで、量もたっぷりで、カーヤの洗練された料理とはぜんぜん違っていたから。
 タキは独身で神官の共同宿舎に住んでるから、きっと当番の時にはこんな食事を作ってるんだ。初めて男の人の料理を見たあたしは、その食事に上手な感想を述べることができなかった。
「お腹すいただろう? 祈りの巫女。口に合うかどうか判らないけど、ゆっくり食べよう」
「ありがとうタキ。気を遣わせちゃってごめんなさい」
 食事は、見かけ通り味付けもぞんざいだったけど、それでもすごくおいしかった。