真・祈りの巫女140
 睨み合いの緊張感はしばらくの間続いた。でも、やがて大きく息をついて、ランドが視線を外した。
「……たかが男1人に命なんか張るな、バカ」
 そのままランドは立ち上がって、部屋を出て行ったの。戻った時にはお酒を瓶ごと持ち込んでいた。
「リョウはたかが男じゃないもん!」
「気に入らねえなら言い直す。 ―― 恋人のために命をかけるのは男の仕事だ。女は見掛けだけでもか弱いフリをしてろ。……でねえと、男の度胸のなさが目立っちまうじゃねえか」
 言いながら、ランドはコップにお酒を注いで、言葉が終わった時にほとんど1口で飲み干したの。そして、少し潤んだ目をあたしに向けて、にやりと笑った。その笑顔はすごくアンバランスで、あたしも思わず頬が緩んでいたの。
「あたしはリョウを守りたいの。だから、みんながあたしを信じてくれるまで、何度だって説得する。それでも信じてもらえなかったら、その時はしょうがないわ。素直に殺されるわ。でも、リョウだけはなんとしても守りたいの」
「もしもリョウが今までのリョウとは別のものだったらどうする。村を滅ぼすために現われた、影の手先だったら」
「その時は……あたしがリョウを殺すわ。約束する」
 リョウに聞かれるのを恐れて少し声を潜めて言うと、おもむろにランドは無言であたしのコップにお酒を注いだ。そのあと自分のコップにも同じだけ注いで、軽く縁をぶつけてくる。仕草で飲むように言われて、あたしはほんの1口だけコップに口をつけた。
「判った。……ユーナ、おまえのことは、オレが守ってやる。おまえが神殿に殺された時にはオレがリョウを守ってやる。そして……おまえがリョウに殺された時には、おまえの代わりにオレがリョウを殺してやる」
 ランドの言葉に、あたしは一瞬身体を震わせた。怖かったけど……でも、ランドはリョウを殺すって言ってるんじゃない。ランドはあたしの味方についてくれたんだ。あたしと一緒にリョウを守ってくれるって、そう言ってくれてるんだ。
 心を憎しみで満たしたあの時、あたしは誰も頼れないって、そう思った。あたしの気持ちは誰にも判らないんだ、って。
 1度孤独に落ちたあたしには、ランドの言葉はすごく心強く響いたの。