真・祈りの巫女139
 たぶんランドは、あたしが祈りの巫女になってからもずっと、あたしのことは小さな女の子として認識してきたのだろう。近所に住んでいて、いつもリョウのことを追いかけてた、小さな女の子。それからまだ何年も経ってないんだもん。あたしがそう祈ることで人を生き返らせたり、村を滅ぼしたりできるなんて、きっと思ってもみなかったんだ。
 もちろんあたし自身だって思ってなかったよ。自分にリョウを生き返らせる力があるだなんてこと。でも、あたしはリョウを生き返らせてしまったの。この事実だって、これから先ぜったいに消しようがないんだ。
「神殿が巫女を殺したなんて話は聞いたことがねえ。それは本当にありうることなのか?」
「今までの巫女は禁忌を犯したりしなかったもの。……あたしもね、考えてた。たとえ守護の巫女が神殿からあたしを追放したとしても、あたしの祈りの巫女としての力が消える訳じゃない。この力はあたしが生まれたときに神様が与えてくださったもので、神殿はあたしに名前を与えただけだから、名前だけを奪っても力は消えないの。もしもあたしの力を恐れて消そうとするなら、あたしを殺すしかない」
 ランドはしばらくの間、一点を見つめて何かを考えているようだった。やがて、残りのお酒をぜんぶ飲み干したランドは、コップをベッドの枕もとに叩きつけるように置いて、言ったの。
「つまり、今のままじゃ遠からずユーナが殺される可能性がある訳だな。神殿がリョウのことを知ったときには」
「あたしは村を滅ぼそうなんて考えてないわ。でも、みんながそう信じてくれなかったら、そういうこともあるかもしれない」
「要はおまえが自分のことを祈ったのが問題なんだな。……だったら、その証拠を消しちまえばいい」
 ランドがそう言って、ベッドの上のリョウに視線を向けたとき、あたしは背筋がゾクッとした。
 まさか……ランドはリョウを殺そうとしているの? リョウを殺して、あたしの命を救おうと言うの?
「やめてランド! リョウはなにも悪くないわ! リョウを殺すなんて言わないで!」
「今なら知っているのはタキだけだ。証拠を消しちまえば、おまえが禁忌を犯したことは誰にも知られないで済むはずだ」
「リョウを殺したらあたしも死ぬから! ……もしも死ねなくても、その時は本当に村を滅ぼす祈りの巫女になるわ!」
 表情を変えずに、ランドはあたしを振り返った。視線の駆け引きには負けないって、あたしはランドを正面から睨みつけた。