真・祈りの巫女138
 ランドはふいっと部屋を出て行って、帰ってきたときにはコップを2つ手にしていた。その1つをあたしに手渡してくれる。
「茶葉が見つからねえからただの白湯だ。酒の方がよければそうしてやるが」
「……ううん、ありがとう」
 少しぬるくなった白湯を一気に飲み干してランドを見ると、どうやらランドはお酒にしたみたい。半分くらい飲んで、そのままリョウの様子を見つめている。たぶん、あたしが話し始めるのを待っていてくれてるんだ。リョウの様子を注意深く観察しながら、あたしは静かに話し始めたの。
「祈りの巫女はね、自分のことは祈っちゃいけないことになってるの。自分のことは強い想いになる。そんな強い想いで祈るのはよくないことだから、神殿ではあたしが自分の願いを祈るのを禁じているの」
 あたしはさっき神様に、リョウを返して欲しいって、そう祈った。あたしの願いを神様に伝えてしまった。その祈りはとてつもなく強くて、だからリョウが甦ってしまったんだ。あたしの祈りが今までよりもずっと強かったから、初めて神様はあたしに神様の声を聞かせてくれたんだ。
「オレにはよく判らねえ。つまり、おまえは悪いことをしたんだな。それなのになんで神様はおまえの願いをかなえたりするんだ? 神様は悪い願いでもかなえてくれたりするのか?」
「神様はね、善と悪を区別したりしないの。それを決めるのは人間で、神様はただ祈りの巫女の祈りを聞き届けてくれるだけ。例えば、あたしが村を滅ぼす祈りをして、その祈りが神様に届いたとしたら、村は滅んでしまう。だから祈りの巫女は、常に正しい心を持っていなければいけないの」
 ランドはあたしを見て、少しあとずさるような仕草をした。今までランドは神殿とはほとんどかかわらずに生きてきた人だった。もしかしたら、あたしに対して恐れの感情を抱いたのかもしれない。
「祈りの巫女は、村に幸せをもたらすけど、同時に村にとって危険な存在でもあるの。あたしは禁忌を破ることで、神殿の信頼を失ってしまったかもしれない。だから、このことが神殿に知られたら、あたしは殺されてしまうかもしれないの」