真・祈りの巫女137
 また、ほんの少しだけ、リョウに会うのが怖い気がした。リョウが消えてしまってるとか、あるいは、明るい光の下で見たら、リョウがリョウとは似ても似つかない別人だったりとか。でもランドはずんずん部屋の中へ入っていってしまって、だからあたしも遅れないようについていったから、あまり考える暇もなくその怖さは氷解していったの。覗き込んだあたしの目に映ったのは、それはあたしが2年前に1度しか見たことがない眠るリョウの姿だったけど、その時目に焼き付けた顔と何ひとつ変わっていなかったから。
 もし、たとえほんの少しでもリョウの様子が違っていたら、たぶんランドはもっとはっきり「これはリョウじゃない」と主張したのだろう。情報としてではなく証拠として数々の不自然さを挙げ連ねて、あたしを説得しようとしたのだろう。でも、たとえ着ていた服がいつものリョウと違っていたとしても、ほんの少し髪形が違っていて、少しだけ肌の日焼けが少ない気がしたとしても、ここにいるのは紛れもなくあたしのリョウだったんだ。まつげも、唇も、首筋のほくろも、生きていた時のリョウと何ひとつ違うところなんてなかったんだから。
「リョウ……ほんとに帰ってきてくれた……」
 ベッドの脇に膝をついたあたしは、リョウの頬に手を伸ばして、その熱さに気がついた。呼吸も少し荒いみたい。たぶんタキが言ってたように熱が出始めてるんだ。
「ランド。リョウ、熱があるわ」
「これだけ派手に獣に噛まれれば熱も出るさ。すぐに引けば問題はない。ただ……長く続いたら危険だな」
「危険? 死ぬかもしれないってこと?」
「そうだ。ごく稀にだか、獣に噛まれた傷口から悪い風が入って、時には命を落とすこともある。だがそれはもうそいつが持って生まれた運の強さがものを言う世界の話だからな。リョウほどの体力があれば、よほど運が悪くない限り大丈夫だ」
 あたしは、枕もとに用意してあった桶で手拭を絞って、リョウの額に乗せた。その作業を見守ったあと、ランドが言ったの。
「ユーナ、これからどうするつもりだ。……さっきタキに聞いたんだが、おまえは祈りの巫女がやっちゃいけねえことをしたそうだな」
 そう問われて、あたしは言葉に詰まった。