真・祈りの巫女135
「リョウの傷は獣に噛まれた傷がほとんどだ。おそらくリグか、それに似た獣の群れに襲われたんだろう。群れに囲まれて、あれほどの傷を負って、それで自力で逃げられたのだとしたら奇跡に近いな。普通はあそこまで怪我をしたらそのまま喰われちまうもんだが」
 深く考えたら、リョウがリグに襲われた怪我をしているのは、すごく不思議なことだった。でも、あたしはそれほど深く考えたりしなかった。それを考えるのは危険だって、心の底で警告が発せられているように。
「リョウは強いもん。リグの群れなんかに殺されたりしないわ」
「そうだな。だからこそ、ふだんのリョウならリグ相手にあれほどの怪我を負ったりもしねえんだ。……あのな、ユーナ。オレは今はおまえの説得を諦めてる。今のおまえには何を言っても無駄だ。だから、これは説得じゃなくて、単なる情報として聞いておけ。……リョウは、本来のリョウは、リグ相手にあれほどの怪我を負うことはぜったいにない」
 ランドがいったい何を言いたいのか、あたしには判らなかった。
「万が一、リョウがリグに襲われてあの怪我をしたのだとしたら、その時はもう自力では逃げられねえ。誰かに助けてもらったか、リグたちが別の危険を察知してリョウを喰うのを諦めたか、そのどちらかだ。ユーナ、リョウは神殿へはどうやってきたんだ?」
「神様が連れてきてくださったのよ。突然神殿が光に包まれて、気がついたらリョウがあの場所にいたの」
「光……? オレはあの時ずっと神殿を見ていたが、光なんか漏れてこなかったぜ」
 え? あの巨大な光は神殿の外からでは見えなかったの? ……それより、ランドはどうしてあの時あんなところにいたの? だってランドは村の、あたしの実家近くに住んでいて、家は影の襲撃からは逃れてたはずなのに。
「もしかして……あたしのことを見張ってたの……?」
「しかたねえだろ。あの時のおまえは普通じゃなかったんだ。同じことをタキの奴も考えてたらしくて、途中からは交代で見張ることにして……。まあ、そんなことはどうだっていいんだ。ユーナ、リョウには今はこの家にあった服を着せてあるが、さっきまでのリョウの服と、身につけていたものをどうする? おまえが望むんならオレが処分してやってもいいが」
 話を聞いているうちに、あたしの足元からは震えが伝わってきていた。