真・祈りの巫女132
 無言で倒れた人影に近づいて、そのまま倒れずにあったろうそくをかざして顔を覗き込んだランドは、一瞬息を飲んだ。
「……まさか。……そんなバカな! リョウは死んだはずだ!」
「怪我をしてるの! お願いランド、リョウを部屋に運んで! あたし1人じゃリョウを助けてあげられないの!」
 勢いよく振り返ったランドは、あたしの肩をきつく掴んで言った。
「ユーナ! いったい何があった! どうしてリョウがここにいるんだ!」
「神様が……神様があたしにリョウを返してくれたの! あたしがリョウを生き返らせて欲しいって祈ったから、神様が奇跡を起こしてくださったの!」
 ランドに言いながらあたし、その言葉をだんだん自分でも信じるようになっていったの。これはあたしを哀れんだ神様が、あたしのために起こしてくれた奇跡なんだって。
「オレはリョウが死ぬところを見たんだ! バラバラになったリョウの亡骸を集めて、草原と森の間に穴を掘って埋めるところも手伝った。おまえがいくら祈ったところであんな状態の人間が生き返る訳がねえだろ!」
「だったらランドはこれがリョウじゃないって言うの? よく見てよ! どう見たってこれはリョウだよ! リョウ以外の人だなんてこと絶対にありえないよ!」
「……ああ、確かにリョウだ。リョウに見える。だけど、これがリョウじゃない可能性だってまったくない訳じゃない」
「リョウだよ! だって、今は気を失ってるけど、さっきほんの少しだけ意識があったの。その時あたしの顔を見て“ユーナ”って言ったんだから! ……ねえ、ランド。今あたしをユーナって呼ぶ人はすごく少ないんだよ。神殿ではカーヤだけで、村ではランドや小さな頃からあたしを知ってる人たちだけで、あとの人はみんなあたしを祈りの巫女って呼ぶんだもん。あたしのことをユーナって呼んだだけで、この人はリョウなの。お願い信じて! リョウを助けてよ!」
「おまえの、名前を呼んだのか……? おまえのことをユーナって……」
 ランドはあたしとリョウを交互に見て、しばらく絶句していた。あたしも黙ったまま、ランドが信じてくれるのを辛抱強く待っていた。