真・祈りの巫女130
 リョウの顔を見た瞬間にあたしを襲ったのは、自らの内から生まれてくる恐怖の感情だった。言葉にするなら、自分が何かとんでもないことをしてしまったかのような、取り返しのつかない失敗をした時のような、そんな恐怖。もう後戻りができない、今の時間をなかったことにはできないんだって、そんな恐怖。この先の未来がまったく予測できなくて、次の瞬間に自分がどう行動していいのかぜんぜん判らない、そんな恐怖。
 目を見開いたまま時を止めていた。そんなあたしの目の前で、リョウは小さくうめきながらかすかにまぶたを開いた。一瞬ろうそくの炎の眩しさに目を閉じて、再び細く目を開けたそのとき、リョウの唇が動いたの。
「ユ……ナ……」
 かすかな空気の流れが声を運んできたその瞬間、あたしの恐怖はまったく違う感情に変わったんだ。リョウが生きていることを信じられない驚きから、生きているリョウが目の前にいる喜びに!
「リョウ! ……リョウ!」
 戻ってきてくれた! ……本当に戻ってきてくれたんだ。やっぱり死んだなんて嘘だったんだよ! だって、リョウがあたしを残して死ぬはずなんかないんだから!
 あたし、思わずリョウを抱きしめてしまいそうになって、でも全身傷だらけで痛みにうめくその声を耳にして、リョウがこのままここに置いておいていい怪我ではないことを悟ったの。
「リョウ! しっかりして! 痛いの? いったいどこが痛いの?」
 まるで、さっき目を開けてあたしの名前を呼んだ、そのことこそが奇跡だったみたい。痛みにときどき身体を痙攣させて、苦痛に歪む額にあぶら汗をかいたリョウは、ふと目を離したら今にも息を引き取ってしまいそうに思えたの。
  ―― ダメ! 今度こそぜったいにリョウを死なせたりしない! あたしがリョウを死なせない!!
 目を離すのは怖かったけど、でも勇気を振り絞って、あたしは神殿から飛び出した。