真・祈りの巫女131
「誰か……」
 神殿の石段を駆け降りながらそう言いかけたけど、大きな声を出すのはためらわれた。不意にリョウの存在を説明するのが困難だって気づいたから。だって、死んだ人は生き返ったりしない。少なくとも今までは、死んだあとに生き返った人なんかいない。神殿であったこと、ぜんぶ正直に話したとしても、話を聞いた人の中にはリョウが悪いものだって思う人がいるかもしれないんだ。
 それにあたし、禁忌に触れた。自分のことを祈っちゃいけないっていう戒めを破ったの。それによってあたしが罰を受けるのは仕方がないことだけど、せっかく生き返ったリョウにまで罪が及ぶようなことがあっちゃいけないよ。
 リョウのことはまだ隠しておかなきゃいけない。だけど、あたし1人じゃリョウを神殿から運び出すことも、怪我の治療をしてあげることもできない。誰か、信頼できる人には正直に打ち明けなきゃ。……タキ、タキならリョウを運ぶこともできる……?
「どうしたユーナ! なにかあったのか?」
 突然声をかけられて驚いた。振り返った視線の先には、本当ならここにいるはずのない人。あたしの肩を力強く掴んだのはランドだったんだ。
「ランド……。ランド助けて! お願い、何も言わないであたしを助けて!」
「……判った。助けてやるから説明しろ」
「ついてきて!」
 ランドはあたしの必死の表情になにか感じるものがあったんだろう。あたし、そのままランドを引っ張って石段を上がった。ランドなら信頼できるよ。だって、ランドはリョウの親友なんだもん。リョウにとって悪いことなんかぜったいにしないはずだから。
 神殿の扉を開ける瞬間、あたしは目を離していた間にリョウが消えていそうな気がして、少しだけ怖かった。でも、ようやく月が山の間から顔を出して、その明るさに照らされた神殿の床に、さっきと変わらない様子でリョウは横たわっていたの。その姿を目にしたランドは、もうあたしが導くのを待つことはしないで、自分からリョウに近づいていった。