真・祈りの巫女129
 凍りつく空気の流れに足がすくんだ。自分が今なにをしていたのか必死に思い出そうとした。でもその時、まるで村中に響くかと思われるような、圧倒的な声があたしの頭を貫いたの。
  ―― おまえの願いをかなえる ――
 その声が聞こえた瞬間、いきなり闇が消えて、あたりは巨大な光に包まれた。
 あたし、両手で頭を抑えて悲鳴を上げたと思った。でもたぶん実際はわずかな声も出ていなかった。巨大な光のあまりの眩しさに目を閉じて、ほとんど驚きに支配された頭で思い出したの。あたし今祈りの途中だった。たとえ略式でも祈りの炎を灯して神様の前で祈った。リョウをあたしにかえして欲しいって、あたしは自分の願いを神様に祈っちゃったんだ。祈りの巫女の禁忌に触れちゃったんだ!
 でもそんなことを思ったのは一瞬で、驚愕にそのほとんどを覆い尽くされた頭の中のほんの片隅でのことだった。あれは神様の声? 神様の声を聞くのは初めてだった。そして神様は、あたしの願いをかなえる、って言ったんだ。
  ―― 目を閉じて、耳をふさいで震えていたあたしにも、次第に周囲の気配が元に戻りつつあることを感じることはできた。やがてほとんどの気配が去って、あたしが恐る恐る目を開けると、あたりは既に元の暗闇を取り戻していたの。身体は硬直してのろのろとしか動かなくて、でもようやく周囲をゆっくり見回すことができた時、あたしは今まで存在しなかったなにかの気配を背後に感じたんだ。同時に、その何かが立てたわずかな音と、小さなうめきも。
「リョウ!」
 神殿のほぼ中央に横たわるもの。あたしはそれに向かってそう叫んで、ほとんど這いずるような感じで駆け寄ったの。でもそれが何なのか、突然の光で眩んでしまったあたしの目では確かめることができなかった。周囲は月明かりもない真っ暗闇だったから、あたしはさっき消えてしまったろうそくを手探りで探して、祭壇の聖火を移して再び戻ってくる。胸の高鳴りを抑えることができなかった。横たわるそれが何なのか、確かめるその瞬間まで。
「リョウ……?」
 明かりを近づけて覗き込む。あたしの目に映ったのは、ボロボロになった服を身にまとった、身体にたくさんの傷を負った男の人。
 その人は、紛れもなく、あたしのリョウの顔をしていた。