真・祈りの巫女125
 目が覚めたとき、あたしは少し落ち着いていた。あたりは暗くなっていて、夕暮れよりも夜に近いみたい。いつもと違う目覚めに戸惑っているうちに思い出したの。ここがリョウの家で、あたしはとうとうリョウの夢を見ることができなかったんだ、って。
 夢にすらリョウは現われてくれない。まるで、早く忘れろって、もう思い出すなって言われてるみたいだよ。そんなことできるはずないのに。あんなにたくさんの未来を描いて、それがいきなり「もうリョウは死んだんだよ」って言われたって、あたしの中にあいた大きな穴をすぐに埋めることなんかできないよ。
 泣きながら眠ったからなのかな。身体を起こすと、ちょっとだけ頭が痛いことに気がついた。
 ここにずっといたら、またカーヤやタキを心配させちゃう。宿舎に帰らなきゃ。ベッドから降りて、リョウの家を出て、あたしはゆっくりとその坂道を上り始めた。足取りは重くてぜんぜん進まない。たぶんあたし、今は人に会うのがすごく怖いんだと思ったの。
 リョウが死んだこと、あたしはすごく悲しくて、苦しくて、傷ついてる。すごく混乱して、自分で自分が判らなくなってる。あたしも初めてのことだったし、あたしの回りにいる人たちだって、同じ体験をした人なんてほとんどいないんだ。だからみんな戸惑ってて、いったいどうやってあたしに接したらいいのか、判らなくなってるの。
 普段と違う振る舞いをするみんなが怖い。みんなの反応の予想がつかなくて、まるで知らない人に囲まれてるみたいで、それが怖いんだ。あたしのことを心配してくれるみんなの気持ちは嬉しいと思うし、心配させちゃいけないって思うけど、でも今はみんなのところに帰りたくないよ。こんなに暗くなるまで帰らなかったら心配させちゃうのは判ってる。でもあたし、できるだけその時を先に延ばしたくて、これ以上できないってくらいゆっくりと歩いていったの。
 それでも、着実に神殿への距離は縮まっていって、気がつくと森の出口はすぐそこだった。お日様はすっかり沈んでいて、月もまだ登っていない時間で、あたりはほとんど真っ暗闇に近い。かろうじて様子が判るのは、神官宿舎に灯りが入った部屋があるからだ。それもポツリポツリといくつかあるだけで、ほとんどの宿舎は寝静まっているのが判る。
 祈りの巫女宿舎はまだ灯りがついていた。カーヤはあたしのことを待ってるのかもしれないけど、あたしはまだ宿舎に帰る決心がつかなかった。もう少しだけ時間が欲しくて、あたしは神殿への石段を上り始めた。