真・祈りの巫女124
  ―― リョウ、あなたはここにいるの?
 心の中でそう声をかけながら、あたしはリョウの気配に満ちた家の中を進んでいく。右手にベッドルーム。そう、このベッドで、あたしは初めてリョウにキスしたの。あの時のようにベッドの脇に膝をついて、そっと頬を寄せると、かすかにリョウの匂いがした。そのリョウの匂いを夢中で吸い込んだ。リョウのこと、もっとたくさん感じたくて。
 いつしかあたしはリョウのベッドにもぐりこんでいた。そうしていると、全身がリョウの匂いにくるまれて、まるでリョウに抱きしめられてるみたい。勝手に涙が出てきて、でも今は誰も見てないからそのまま放っておいたの。あふれて流れた涙は枕に吸われて、いくらも経たないうちに枕がぐっしょり濡れてしまった。
  ―― リョウの嘘つき。ずっと一緒にいるって、ぜったいどこへも行かないって、そう約束したのに。どうして独りで死んじゃうの? どうしてあたしを一緒に連れて行ってくれなかったの?
  ―― あたしを守ってくれるって言ってた。あたしの家族も守ってくれるって。リョウは、あたしの父さまと母さまを守れなかったから、死に急いでしまったの? それとも、あたしの結婚相手がリョウじゃないかもしれないって聞いて、ショックを受けてしまったの?
  ―― あたしがリョウと結婚したいと言ったその言葉を、あなたは疑ってしまったの……?
 リョウが傍にいるだけで幸せだった。離れていても、リョウがあたしのことを想ってくれてるって、そう思うだけで幸せだった。ずっと傍にいて、あたしが悩んでいる時は話を聞いてくれて、リョウが悩んでいる話を聞くことができたら。そうやって2人だけの時間を積み重ねていけるんだったら、それだけでよかったの。誕生の予言も、騎士の宿命も、そんなものどうだってよかったのに。
 リョウ、お願い助けてよ。あたしは今が1番リョウの助けを必要としてるの。苦しくて、苦しくて、どうすることもできないの。たくさん泣きなさいって、カーヤは言ったけど、泣いたってぜんぜん苦しくなくならないよ。
 泣いたら、リョウを忘れられる? どのくらい泣いたらリョウを忘れるの? ……忘れることなんかできないよ。今までリョウのことを好きだった10年間分泣いたって、リョウを忘れるなんてできない。
 せめて夢の中でも会いたい。そう、思ったのかそうでなかったのか、いつの間にかあたしはリョウのベッドで眠りについていた。