真・祈りの巫女123
 誰にも話し掛けられたくなくて、あたしは長老宿舎を出たあとすぐに、神官宿舎の裏手に回りこんだ。そのままぼんやりと歩いていると、うしろからタキが追いかけてきたの。あたしは振り返ることすらしなかった。
「祈りの巫女、疲れたんじゃないのか? 少し宿舎で休んだ方がいいよ」
 すべてが煩わしくて、タキの心配そうな声を聞いているだけで苛々した。タキにはあたしの気持ちなんてぜったい判るはずないもん。いったい何に怒ったらいいのか判らないよ。リョウが死んだのはあたしのせいで、さびしくて悲しくて、本当はもう一瞬だって生きていたくないのに誰もあたしを死なせてすらくれない。
「祈りの巫女、宿舎へ帰ろう ―― 」
「放っておいて! あたしを1人にしてよ!」
 そのまま振り返らずに駆け出した。タキは驚いて立ち止まったみたいだったけど、今のあたしにはどうでもいいことだった。
 神官宿舎の裏手には、リョウの家に続く坂道がある。再び歩き始めたあたしは自然にその道を下っていったの。この道は、もともとあった細い獣道を、リョウが時間をかけて広げていったもの。ところどころにリョウの手が入っていて、リョウの気配に満ちていて、まるでリョウがいなくなったことが嘘のような気がする。
「リョウ」
 そう、声に出して呼びかけたら、木の陰からひょっこり顔を出してくれそう。あたしはリョウの姿を求めて、キョロキョロしながらやがてそこにたどり着いた。リョウの家。神殿のみんなが手伝って建てて、そのあと暇をみてはリョウが住みやすく改良していった、やがてはあたしも一緒に住むはずだった家。
  ―― 扉を入ると、リョウの家は何も変わらずそのままあった。
 このところ何日か帰ってなかったから、テーブルにはうっすらと埃が積もっていたけれど、それ以外何も変わってない。狩りに使う道具は壁にきちんと並べられていて、その多くはリョウが村へ行く時に持っていってたはずだから、もしかしたらランドがきれいに整備して戻してくれたのかな。横目で見て、あたしはリョウの名前を呼びながら、家の奥へと歩いていった。