真・祈りの巫女122
 災いを運んできたのはあたし。もしもあたしが生まれなければ、そもそもあたしを殺すために現われたあの影だって、村にやってくることはなかっただろう。どうしてあたしは生まれてきたの? あたしが生まれなければ、村はずっと平和なままだったかもしれないのに。
「祈りの巫女、リョウのことも村のことも、あなたにはなんの責任もないわ。あなたが今どんなに辛いかは判るつもりよ。恋人を、家族を失って、希望まで失ってしまうのも判らないでもない。……お願い、祈りの巫女。自棄にだけはならないで。自分ひとりで影に殺されに行ったり、西の沼に飛び込んだりはぜったいにしないで。今、村に希望があるとしたら、あなたの存在だけなのだから」
 守護の巫女はいつも村のことを考えてる。ただ村のことだけを。彼女にとっては、リョウも数字なんだ。狩人が1人死んだ、ってそれだけ。……あたしもだ。ユーナじゃなくて、祈りの巫女っていう記号。
「……ごめんなさい。会議を続けて」
 あたしが席に座ると、少し心配そうな視線を向けながらも、守護の巫女は会議を再開した。
「とにかく、影に近づくのは私が許可を出した神官と、何人かの狩人だけにして、巫女と狩人以外の村の人は一切近づかないこと。幸いにして民家の近くじゃないから好んで近づく人はいないと思うけど、子供には注意するように村の人にはきつく言っておいてちょうだい。これから4日間は影の来襲はないけれど、もちろんこれで終わった訳ではないわ。みんなもゆっくりと身体を休めて、でも気は抜かないで欲しいの。それは村の人たちにも伝えておいて。……祈りの巫女」
 あたしが顔を上げると、守護の巫女はいたわるように微笑んだ。あたしは微笑み返すことができなかったけど。
「もし、ほんの少しでも気力が戻ってきたら、その時はできるだけ祈りを捧げてちょうだい。……たぶんそれはあなたにとっても救いになるはずよ」
 なんとかうなずくと、守護の巫女は視線を移して再び話し始める。
「聖櫃の巫女は少し残って、あとのみんなはひとまず身体を休めて、そのあとは日常の仕事に戻ってちょうだい。次の会議はまたその時に連絡するわ。……特に運命の巫女、ぜったい無理はしないで。今あなたに倒れられたらみんなが困るわ」
 中でも特に疲労の色を見せていた運命の巫女が苦笑いで答えて、会議は散会した。