真・祈りの巫女121
 自分ではどうすることもできない苛立ちに、あたしは半泣きで立ち上がっていた。あたしを落ち着かせるように隣のタキが肩を叩く。でも身体の震えを抑えることはできなかった。運命の巫女は目を伏せてしまって、代わりに神託の巫女が引き継ぐ。
「あの時はリョウの未来も不確定だったのよ。祈りの巫女、判ってちょうだい。あなたやあなたの周りにいる人たちの未来はどんどん変わっているの。先代が行ったリョウの誕生の予言は、実際にリョウが歩んだ人生とはまったく違っていたわ」
「だったらリョウが生きている可能性もあったってことじゃない! それを教えてくれれば、リョウは生きてたかもしれないじゃない!」
「できなかったのよ。……もう言ってもいいわよね、守護の巫女、守りの長老」
 守護の巫女と守りの長老が哀しげにうなずくと、神託の巫女はゆっくりと言った。
「祈りの巫女、リョウはね、騎士だったのよ。祈りの巫女のために生まれてくる2人の騎士のうち、リョウは右の騎士だったの」
  ―― 時間が、止まったような気がした。
 2人の騎士は、祈りの巫女を守るために生まれてくる。でも歴代のすべての祈りの巫女にいる訳じゃなくて、1人だけのこともあるし、まったくいないこともある。祈りの巫女の近くにいる男性がほとんどで、多くの場合その運命は悲劇的なんだ。祈りの巫女を守って、祈りの巫女よりも先に死んでしまって、例外は2代目セーラの右の騎士だったジムただ1人だけ。あたしに騎士がいるってことは、以前守りの長老が教えてくれていたけど……。
「祈りの巫女が村の未来を担っているのと同じように、騎士も村の未来に多大な影響を与えているの。騎士の行動が村の未来を決めるのよ。だから、たとえ騎士が死ぬことが判っていたとしても、私たちはそれをどうすることもできなかった。……許してちょうだい祈りの巫女。私たちは、あなたが騎士の運命を変えてくれることを願うことしかできなかった ―― 」
 リョウ、あなたを殺したのは、あたしだ。
 あたしが祈りの巫女として生まれてしまったから、リョウが持っていた本当の運命を変えてしまった。リョウを騎士に仕立てて、リョウを死に追いやってしまった。あたしのリョウ。もしもあたしが祈りの巫女じゃなかったら、あたしはリョウとずっと一緒にいられたの?
 ううん、そもそもあたしが生まれたことがいけなかったんだ。あたしが村に災厄を運んで、リョウを殺してしまったんだ。