真・祈りの巫女120
 未来が、あたしを必要としている? 今のあたしは祈りを神様に届けることすらできないのに。
「歴代の運命の巫女の物語を読んでいると、ときどき同じことが書いてあるわ。本来運命の巫女は、自分が生きている間の未来なら、おおよそ見ることができるのよ。でもたまに見えなくなるときがあって、それはほとんどの場合祈りの巫女や命の巫女が生きている時代なの。……あなたにも読ませてあげられるといい。そうすれば判るのに。本当の意味で村の未来を作っているのは、祈りの巫女と命の巫女なんだ、ってことが」
 運命の巫女は1度言葉を切って、続けた。
「村に危機が訪れて、でも今までは1度も村が滅びるようなことはなかったわ。運命の巫女は未来が見えなくて、ずいぶん辛い想いをしたものだけど、でもみんな、祈りの巫女が必ずなんとかしてくれるって希望を持ってたの。……あなたには辛いことかもしれない。でも、ここであなたが死んだら、おそらく間違いなく村は滅びるわ。今は祈りが届かなくても、祈りで未来を変える力があなたには必ずあるの。だからお願い、自分を信じて。私も少しでも未来を見てあなたの手助けができるようにするから」
 運命の巫女はそう言ってくれて、あたしはその気持ちが嬉しかった。でも、今は自分を信じることも、未来を信じることもできなかった。だって、リョウはもういないんだもん。これから先、どんなにあたしが頑張ったって、あたしにとっての未来はもうないんだから。
「運命の巫女、あなたはリョウが死ぬ未来も見えていたの?」
 あたしの言葉に、運命の巫女はさっと顔を曇らせた。
「……見えていなかった、といえば嘘になるわね。私にそれが見えたのは、3回目の影の襲来を予言したあの時だけど」
「だったらどうして教えてくれなかったの! だって、あの時なんでしょう? 2回目の災厄の前の会議で、みんながここに集まってた。誰も何もあたしに教えてくれなかった。父さまや母さまのことも、リョウのことも、みんな知ってたのにどうしてあたしに教えてくれなかったの!」
 あたしに何かを隠しているように、みんな無言で、守護の巫女だけが作り笑いで話してた。あの時に教えてくれてたら、あたしはぜったいにリョウを村へ帰したりしなかった。何か違う原因でリョウが死んだとしても、それならなおさら少しでも長い時間一緒にいたのに。