真・祈りの巫女119
 これ以上、あたしが生きていても仕方がないよ。祈りは通じなくて、なのに影はあたしを狙ってくる。今のあたしは災厄を呼び寄せるエサ以外のなにものでもないもん。少しでも村の人の役に立つなら、影に殺されて死んだ方がいい。
 今のあたしにはもう何もないから。あたし、これ以上生きていても仕方がないから。
「守護の巫女、私も祈りの巫女の意見には賛成できないわ。祈りの巫女が影に殺されて、それでも災厄が収まらなかったら、それ以上打つ手がないもの」
 そう言ったのは運命の巫女だった。親友の言葉は、守護の巫女にも気力を与えたみたい。守護の巫女は運命の巫女を振り返った。
「今のところ未来はどのくらい見えているの?」
「4日先よ。その間、新たに影が現われる兆しはないわ。その先のことはまだ見えないけど……みんな、思い出して欲しいの。私たち巫女は最初の影が現われる前、おそらく何らかの形で異変を感じていたんじゃないかしら。私はあの夜はまったく眠れなかったわ」
 運命の巫女の言葉で、あたしもマイラが死ぬ前の日のことを思い出そうとした。……あの日、あたしはリョウとの結婚話がいよいよ現実になるって、そのことで興奮して眠れなかったんだ。でも、もしかしたらそうじゃなかったの? あたしはあの日、影の襲来を予感して、それで ――
「そういえば私もそうよ。村に子供が生まれるのはまだ1月も先の予定なのに、なんとなく予感がして、あの夜は家へは帰らずに宿舎に泊まることにしたの」
「私もだわ。夕方急に気分が悪くなって、宿舎に横になって……」
 神託の巫女と聖櫃の巫女が次々に言った。そうだ、あの朝、あたしは普段ならいるはずのない神託の巫女に起こされたの。いつもは村にある自分の家に帰ってしまうはずなのに。
「つまり、たとえ運命の巫女に未来が見えなくても、私たちはある程度危険を予感することができるのね。あの時は全員、その予感の意味が判らなかったけれど、今なら判る。これから先同じ予感を感じたら、すぐに私に知らせてちょうだい」
「祈りの巫女、私にはまだ未来がはっきりと見えないのよ。でもそれは、未来がまだ祈りの巫女を必要としている、って証でもあるの」