真・祈りの巫女116
 ある程度じっくり絵に見入っていた巫女と神官たちは、そのうち顔を上げて互いに目を見合わせてざわめき始めた。あたしも隣にいたタキに意見を求めるような視線を投げかけたけど、タキも困惑したように首を振るだけだった。いったいなんて言ったらいいんだろう。影は、動物というよりはむしろ昆虫のようで、でも昆虫より遥かに「人が作った何か」に似ていたから。
 それとも、大きいからそんな風に見えるだけなのかもしれない。例えばあたしたちがよく知っている小さな虫も、大きく拡大した絵を描いてみたら、ぜんぜん違ったものに見えるのかな。
 ざわめきが大きくなると、それを制するように守護の巫女が再び口を開いた。
「これは簡単なスケッチで色をつけてないのだけど、これを描いたセリの話だと、影は全体に黄色か、オレンジに近い色をしているそうよ。部分的には黒や銀色、あるいは透明なところもある。表面に光沢があるから、まるで昆虫を大きくしたようにも見えるって。……この絵は影を横から見た姿を描いているのだけど、見る角度によってまったく違う姿をしているらしいわ」
 そうか、セリもやっぱりこれを見て昆虫を連想したんだ。でも、この絵だけではとても名前を付けることなんてできそうにないよ。影をこの目で見てみたい。そう、あたしが口に出すよりも早く、神託の巫女が言った。
「守護の巫女、この影を直接見たいわ。私が見て触れれば何かが判るかもしれないもの」
 神託の巫女は生まれた子供に触れて、その子が持っている運命や宿命を予言する。それは別に子供に限った能力じゃないから、未知の生物に対してだって有効かもしれないんだ。ただ、死んだ生き物の予言をできるって話は聞いたことがなかったけど。
「それは無理よ。今この巨大な生き物は動かないけど、本当に死んだかどうか、私たちには確かめる術がない。もしも神託の巫女が近づいた途端に生き返りでもしたら、私たちはあなたを失うかもしれない。そんな危険なことは許可できないわ」
 あたしは驚いて守護の巫女を見た。守護の巫女は、影が死んだことを信じていないの? リョウが、自分の命と引き換えに、影を倒したのに。もしも影が生きていたら、リョウは無駄に死んだことになる ――
 あたしは自分でも抑えきれない苛立ちを感じて、知らず知らずのうちにそう口にしていた。
「あたしが影に会うわ! そうすれば生きてるかどうか確かめられる。 ―― 影は、あたしの命を狙って村にきたんだから」