真・祈りの巫女114
 リョウ、あたし、リョウが傍にいてくれればそれだけでよかったの。影なんか倒せなくたって、周りの人にひどいことを言われたって、最悪リョウと結婚できなくたってよかった。ただ、リョウが生きていてくれさえすればよかったよ。だって、リョウが死ぬことよりも辛いことなんて、あたしにはないんだから。
 リョウがいないのに、あたしはどうして村を守れるの? どうして村のために祈りを捧げることができるの? だって、村を守る意味なんてもうないよ。リョウがいない村を守ったってなんにもならないじゃない。
  ―― 最後の1口を食べ終わると、不思議にあたしの涙は止まっていた。
 顔を上げるとカーヤが見つめている。あたしは涙をぬぐって、そのまま無言で台所に顔を洗いに行った。巫女の会議に行かなきゃ。たぶんタキが宿舎の外で待ってるはずだもん。顔を洗い終えて、カーヤが差し出してくれた手ぬぐいて顔を拭いて、やっと少しだけ笑みを浮かべることができた。
「ごちそうさま、カーヤ。行ってくるわ。オミのことよろしくね」
「え、ええ。任せて」
 逆にカーヤは不安そうに返事をした。あたしはもうそのことは気にしないで、扉を出て、外に所在なく立っていたタキを驚かせた。
「待たせちゃってごめんなさい。もうみんな集まってるでしょう?」
「ああ、たぶんほとんど集まったと思うけど……大丈夫なの?」
 タキはあたしを心配してくれてるみたい。そういえば、さっき宿舎に帰ってきたとき、あたしはタキに別れの言葉も言わなかった。あの時タキはきっと、カーヤに頼まれてあたしを探しにきてくれてたんだ。あの時のこと、あたしはあんまり覚えてないけど、あたしが訳の判らないことを言ってたからずいぶん心配させちゃったよね。
「心配させてごめんなさい。でも大丈夫よ。あたしは祈りの巫女だもの」
 タキはちょっと不安そうな表情を返してきて、それはあたしの中でさっきのカーヤの顔と重なった。
 心配は要らないって、ちょっとタキに微笑んで、あたしは急ぎ足で長老宿舎へ向かったの。