真・祈りの巫女112
「ユーナ、朝食にするんでしょう? 今スープを温めるわ。実はね、さっきそこで守護の巫女付きの神官に言われたの。会議を始めるから、名前のついた巫女は食事が終わったあと、守りの長老宿舎に集まるように、って」
 カーヤはあたしにそう話しながら、さりげなくあたしを食卓まで誘導していった。食卓のあたしの席には既に朝食が用意してある。さっき、自分でカーヤに頼んだはずなのに、今はぜんぜん食欲がない。並べられた食事がおいしそうに思えなかった。
「会議が始まるのね。……ごめんなさいカーヤ、せっかく作ってくれたけど、あたし今食べたくないの。会議まで時間もあんまりないみたいだから、これからすぐに行くわ」
「それはダメよユーナ。守護の巫女は「食事が終わってから」集まるように言ったんだから。遅刻するのはかまわないけど、食事を抜くのは許さないって、そう言ったそうよ。たぶんもうじきタキがくるけど、ユーナが食事を終えるまで、あたしは一歩もこの宿舎から出さないつもりでいるからね。諦めて食べるのよ」
 話しながらカーヤはスープを温め終えて、お皿をテーブルに並べてくれたの。胸が重苦しくてぜんぜん食べられる気がしなかったけど、あたしは食卓に座って、スープを口に運んだ。……ぜんぜん、食べられると思ってなかった。でも、程よく温められたスープを口に含んで、飲み込んだとき、あたしはそのスープをおいしいって感じたんだ。喉を通って身体の奥まで染み渡った1口のスープ。もっと欲しがっているようにお腹が鳴って、あたしはそれがすごく悲しかったの。
 あたしの身体が生きようとしている。リョウはもういなくて、祈りはぜんぜん通じなくて、未来に希望なんかひとかけらもないのに、あたしの身体はまだ生きてる。おいしいものを食べればおいしいって感じる。どうしてリョウがいないのにスープがおいしいの? あたし、そんな自分がものすごく悲しくて、知らず知らずのうちに涙を流していたの。
「ユーナ! ……どうしたの?」
「……おいしい」
 あたしはそれきり何も言えなくて、無言のまま泣き続けた。泣きながら、少し冷めた野菜炒めとリゾットを口に運んで。
「泣きなさい、ユーナ。……理由なんかなんでもいい。ムリヤリ理由を見つけてでいいから、できるだけたくさん泣くのよ」