真・祈りの巫女108
 例えばもし、あたしが影の前に立ちはだかって、この命を捧げたら、影たちは村を壊すのをやめてくれる?
 もしも影があたしを殺すだけで満足して、それ以上村に何もしないのなら、あたしは影に命をあげてもいいよ。だって、あたしの未来にはもう、リョウはいないんだもん。あたしがいちばん欲しかったリョウとの幸せな未来は、これから先どんなことをしたって手に入れることができないんだもん。
  ―― ユーナ
 不意に、声が聞こえた気がしたの。ドキッとしたのは、その声がまるであたしの考えを責めているように聞こえたから。あたしはキョロキョロあたりを見回して、それから精一杯耳を澄ました。
「ユーナ」
 それははっきりと現実味を帯びた声で、しかも壁の向こう側から聞こえてきたの。あたしはすぐに立ち上がって隣の部屋に行った。ずいぶんいつもの声と違ってしまったけど、それがまぎれもなくオミの声だって判ったから。
「オミ、どうしたの? なにか欲しいの? それともどこか痛むの?」
 オミの病室に入って、ベッドの顔を覗き込みながら、あたしはオミに声をかけた。オミのことを忘れてた訳じゃないけど、昨日は両親の葬儀から帰ってすぐに神殿に入ってしまって、部屋にたどり着く頃にはもう遅い時間だったから、あたしはまだオミに葬儀の様子を話してすらいなかったんだ。相変わらずオミは包帯だらけだったけど、少なくとも包帯は取り替えられていたし、顔色が昨日よりもずいぶんいいみたい。あたしがいない間、カーヤやローグがちゃんとオミの看病をしてくれていたんだ。
「何もいらない。さっきカーヤが水と薬をくれたから、痛くもない」
「そう、それはよかったわ。……カーヤはどこに行ったのかしら」
「ちょっとね。ユーナ、そこの椅子に座って。父さんと母さんの葬儀に行ってきたって。話を聞かせて」
「うん、献花と、最後の祈りを捧げてきたわ ―― 」
 言われた通りに椅子に腰掛けて、あたしはオミに葬儀の様子を話し始めた。