真・祈りの巫女109
 父さまと母さまの棺に花を供えたこと。最後の祈りを捧げたこと。そのあとうしろにリョウが立っていたことを話し始めたとき、あたしは声を詰まらせてしまった。そんなあたしの様子をオミは察したようで、話の先を促すことはしなかった。
「ユーナ、オレ……、リョウが死んだなんて、信じられないよ」
 信じられない。それが、今のあたしにもいちばんぴったりくる言葉だった。リョウが死んだって、その現実だけはどうにか理解できたけど、でもぜんぜんリョウがどこにもいないだなんて思えないの。ふっと気を抜いたら、またあたしは思ってしまいそう。リョウは昨日までとまったく同じように、村で他の狩人と一緒に村の人々を守ってるんだ、って。
「昨日と逆になっちゃったけど、あの時ユーナがオレの傍にいてくれたように、オレもユーナの傍にいるよ。だから、悲しみを我慢なんかしなくていいよ。涙をぬぐってあげることはできないけど、ずっと傍にいてあげることはできるから」
 オミがそう言ってくれて、あたしはそんなオミの気遣いを嬉しく思ったけど、でもオミの前で泣くことはできなかった。それはここにいるのがオミだからじゃなくて、きっと誰の傍にいても、あたしは泣くことができないんだ。リョウが死んだのにあたしは泣けないの。普通、恋人を失った女の子は声を上げて泣き続けるよね。悲しくて、さびしくて、回りに誰がいたってそんなこと思いもしないで手放しで泣くのが普通だよ。
 あたし、冷たいの? リョウが死んで悲しくないの? ……判らない。自分が悲しいのかどうかすらあたしには判らない。リョウの亡骸にすがって声を上げて泣いている自分の幻が見える。……そうか、あたしはリョウの亡骸を見ていないから、幻の自分のようにリョウの死を受け止めることができないのかもしれない。
 自分の幻の中に引き込まれそうになったあたしは、再びオミの声で現実に引き戻された。
「ユーナ、オレが最後にリョウに会ったのは、あの時だよ。ほら、最初に現われた影がマイラを死なせて、ユーナが家にこられなくなった日」
「……リョウから聞いたわ。約束が守れなかったお詫びに行ってきたんだ、って」
「そんなに長い時間はいなかったんだけどね。オレは仕事に行く支度をしながら、父さんとリョウとの会話を少しだけ聞いていたんだ」