真・祈りの巫女110
「朝、出かける直前で、オレの支度が整うまで父さんは食卓で母さんと話してた。ちょうどマイラの訃報が届いたばかりで、母さんはオレたちが出かけたらすぐにマイラの家の様子を見に行くことにしてたんだ。そんな時リョウがきて、ほんのわずかの間だけだったけど、父さんと話をしていった」
 どうして突然オミがそんな話を始めたのか判らなかった。でも、あたしは自分のことで精一杯で、オミのことまで追及する気力がなくなっていた。なんとなくオミと話をするのが煩わしかった。胸が詰まったように苦しくて、重くて、今は何も考えたくない。
 これ以上、父さまやリョウのことを聞いてどうするの? 昨日までとは違うのに。あたしはもう、リョウにも父さまにも何もしてあげられないのに。
「オレも忙しかったから内容をちゃんと訊いた訳じゃないんだけど、たぶんリョウはユーナとの結婚を父さんがどう思ってるのか、訊きにきたんだと思う。その時オレには、父さんが言ってた一言だけが聞こえてきたんだ。『リョウ、君は神様が決めたユーナの結婚相手じゃないかもしれない』って」
 ……あたし、オミの言ってることがあんまりよく判らなかった。リョウは、あたしの結婚相手じゃない……?
「オレはその言葉が気になって、あとで仕事場に向かいながら父さんに聞いてみたんだ。その場では父さんは何も教えてくれなかったけど、作り置きの品物を神殿に届けた帰り道で少しだけ話してくれた。 ―― ユーナのような特別な運命を持った人は、神託の巫女が行う誕生の予言でもそれほど多くの未来は見えないんだって。ユーナが生まれたとき父さんたちが聞いた予言は『この子は祈りの巫女になる』って、ただ1つだけだったんだ。それと、ユーナの未来があまり見えないのと同じように、ユーナとかかわりの深い人の運命も正確には見えない。だから、リョウはユーナと結婚する可能性もあるけど、もしかしたら違うかもしれないって、父さんは言ってたんだ」
「……」
「でも、ユーナがリョウのことをあんなに好きなんだから、2人が結婚することが正しいんだろう、って。 ―― ユーナ、オレ、残酷なこと言ってるかな。でもオレ、ユーナにこのことを話さなきゃって、父さんが死んでからずっと思ってたんだ。せめてオレが死ぬ前にユーナに伝えておかなきゃって」