真・祈りの巫女106
 知らず知らずのうちに、あたしは足を止めてしまっていた。
 この時、あたしは初めて、人が死ぬということを理解したのかもしれない。今までだって、あたしの周りにはたくさん、死んでしまった人がいたの。あたしが覚えている限りでは、最初に死んだのはシュウ。でも、シュウが死んだときにはあたしはたったの5歳だったし、すぐにシュウが生きていたこともすべて忘れてしまったから、12歳で再び思い出した時もそれほどの衝撃は受けなかった。
 マイラが死んだとき、あたしはリョウの胸でたくさん泣いた。マイラの幸せが失われたことが悲しかった。その悲しみは、あたしの悲しみじゃなかったんだ。マイラはさぞかし無念だっただろうって、そうマイラの心を察することで流れた涙だったの。
 両親の死を、あたしは拒否した。認めてしまえば自分の生まれてきた意味すら失ってしまうから。……あたしはリョウの死も拒否したかったのかもしれない。だって、リョウが死んだのは、間違いなくあたしのせいだったんだから。リョウは、村が襲われたあの時村にいた、唯一「あたしの匂い」がする人だったの。
 リョウは、もう、20歳にはならない。これから先のあたしの時間の中に、リョウはもう存在することができない。人が死ぬことの意味ってこういうことだったんだ。昨日、リョウの時間は永久に止まってしまって、だから未来をどんなに探しても、リョウを見つけることはできない ――
 今、どんなに必死になって探したって、あたしがリョウを見つけることはできないんだ。リョウは昨日よりも前の時間にしかいない。そして、今日を生き始めてしまったあたしには、もうぜったいにリョウを見つけることはできないんだ。
 あたしが1日生きると、昨日はおとといになる。あたしが生きれば生きただけ、リョウが遠くに行っちゃうの。あたしは昨日の時間にリョウを置いてきちゃったんだ。そして、リョウがあたしを追いかけてきてくれることは、永久にない。
 人が死ぬってこんなことだったの? あたしの、リョウに満たされていた心の中、そのすべてがいきなりもぎ取られてしまったみたい。今までリョウがいた場所、リョウと一緒に歩いた道も、この先リョウがいる場所になることはぜったいにないんだ。どこへ行っても、そこはリョウのいる場所じゃない。昨日リョウがいた場所にはなっても、今日リョウがいる場所にはならないんだ。
 タキの手を振り払って、あたしはふらふらと歩き始めた。タキはもう強引にあたしの手を捕まえることはしなかった。