真・祈りの巫女104
 カーヤが朝食の支度をしている間、あたしは昨日書けなかった日記を書いていたの。一昨日の日記は真夜中の災厄がくる手前で終わっていたから、それからあとの2回の災厄について、あたしは記憶を辿った。……なんだかすごく昔のことみたい。父さまと母さまが死んで、まだ1日ちょっとしか経ってないのに。
 神殿で祈りを捧げたこと。あたしの祈りがぜんぜん通じなくて、影の声と臭気にあてられて気を失ったこと。両親の死と弟オミの負傷。翌日の村人たちとの確執と、午後から両親の葬儀でリョウに会ったこと ――
 そうだ、あたし、リョウに会いに行くんだ。
 誰か言ってたよね、リョウは村で眠ってる、って。もう誰だったか覚えてないけど、リョウが村で眠れるところっていったら、実家かランドの家だ。カーヤ、まだ朝早いって言ったけど、もしもリョウが眠ってたら目が覚めるまで待ってたっていいもん。婚約者なんだから、そのくらいのわがまま許してもらえるよね。
 あたしは部屋を出て、ちょうど炒め物をしていたカーヤのうしろを通って、宿舎の外に出た。カーヤが言ってた通りまだ巫女のほとんどは眠ってるみたいで、いつもなら誰かしら声をかけてくるのに、あたりには人っ子1人見あたらなかった。あたしはまだ少し頭痛がしていて、うっかりすると木の根に足を取られそうで、だから慎重に山道を降りていったの。リョウはまだ眠ってるかもしれないんだもん。少し時間がかかるくらいの方がちょうどいいかもしれない。
 そうして、かなり村近くまで下った時だった。不意に、あたしはうしろから腕をつかまれたの。
「祈りの巫女!」
 驚いて振り返ると、うしろにタキが青ざめた表情で立っていたんだ。
「タキ……どうしてここに?」
「オレのセリフだよ。祈りの巫女、いったいどうしたんだ? どこへ行こうとしてるんだ?」
「リョウに会いに行こうと思ってたの。……もしかして、もう巫女の会議が始まっちゃうの?」
 タキはあたしの答えに、しばらく言葉を失ってしまったみたいだった。