真・祈りの巫女102
 なんだか頭が痛かった。目がかすんで、うまく身体のバランスが取れなくて、まるで現実にいるんじゃないみたい。頭の中がうまくまとまってくれないの。とにかく顔を洗いに行かなくちゃならなくて、そのために立ち上がらないといけないのに、風景に靄がかかったみたいで上手に立ち上がれないから、周りをちゃんと見るために顔を洗いたいの。でも、それってなんだかすごく変だよ。ちょっと面白くて、あたしは声を上げて笑った。
 もしかしたらあたし、半分おかしかったのかな。たぶんあたしの笑い声を聞きつけたんだろう。ゆかに座り込んだまま笑い続けていたあたしは、突然誰かに抱きしめられたの。笑うのをやめて、声を聞いて、それがカーヤだってことに気がついた。
「ユーナ……! お願いユーナ、しっかりして!」
 声は震えていて、あたしにはカーヤが泣いていることが判った。
「リョウは死んだのよ。あなたを残して死んじゃったの! ユーナ、お願い、リョウが死んだって認めて。リョウのために泣いてよ……」
 カーヤ、どうしてそんなことを言うんだろう。リョウが死んだって、あたしは昨日ランドに聞いたよ。それなのにどうしてカーヤは泣いてるの? ……そうか、カーヤ、リョウのことが好きだったもんね。カーヤが泣いててもあたりまえなんだ。
 あたし、ものすごく混乱してるみたい。リョウはどうして死んだんだろう。あたしの両親に結婚を許してもらうつもりでいて、でも両親が先に死んじゃったから、リョウは天国まで結婚の許しをもらいに行ったの? だったら、両親が許してくれたら、リョウはまたあたしのところに帰ってきてくれる?
 リョウを探しに行かなくちゃ。でもその前に顔を洗わないといけないわ。今はカーヤに抱きつかれて、ただでさえバランスが取れないのにますます立てなくなっちゃってる。やだ、なんだかすごくおかしいよ。もしもカーヤも立てなくなっちゃってたら、あたしたちずっとこの部屋でしゃがみこんでるしかないじゃない!
 そうだ、確か昨日ローグが言ってたんだ。今日は巫女の会議があるんだって。もちろんあたしも出席しないといけないわよね。だって、あたしはこの村にたった1人しかいない、祈りの巫女なんだもん。
 頭の中がぐちゃぐちゃで、けっきょく何ひとつできないまま、あたしはカーヤの胸に顔をうずめていた。