真・祈りの巫女96
 影の声に波長を合わせていたあたしには、やがて西の森から2つ目、3つ目と現われる影の声がすべて聞こえてきていた。
  ―― 祈リノ巫女ヲ殺セ。祈リノ巫女ヲ滅ボセ
  ―― 祈リノ巫女ノ匂イヲ探セ
  ―― 祈リノ巫女ハ我ラノ世界ヲ滅ボス。祈リノ巫女ノ匂イヲスベテ消シ去ルノダ
 村が破壊されていく。その様子を、あたしは呆然と見守ることしかできなかった。……思い出したの。前回の時、あたしがなぜ意識を失ってしまったのか。
 あたしはあの時、影のこの声を聞いたんだ。祈りの巫女に対する敵愾心。祈りの巫女を滅ぼすために、影たちがこの村に来たんだ、ってこと。村は、あたしが存在するせいで、影たちに襲われることになったんだ!
 父さまも母さまも、あたしが生まれたせいで死んでしまった。もしもあたしが生まれなかったら、村はずっと平和なまま、父さまも母さまもマイラも誰も死なずにいられたんだ。
 あたしはあの時、この声を忘れるために記憶を閉ざした。父さまと母さまの死を頭の中から必死で追い出そうとした。なぜなら、父さまと母さまの死をはっきりと知覚した時、あたしは影の声を思い出して自分の罪の意識に飲み込まれてしまうから。
 父さま、母さま、もしもあたしが生まれなかったら、あたしを育ててくれなかったら、2人ともこんなに早く死なずに済んだ。
 マイラ、もしもあたしが生まれなかったら、シュウはあたしを助けるために死ぬこともなくて、親子3人でずっと幸せに暮らせた。
 オミ、あなただって、あたしの匂いを消すために現われた影なんかに、両親と若い貴重な時間を奪われずに済んだよ。
 ライだってそう、あたしがマイラのために祈りを捧げなかったら、一生を不自由な身体で過ごす必要なんかなかったのに ――
 村のみんながあたしを恨みに思うのもあたりまえなんだ。だって、あたしが生まれていなかったら、影に家を壊されることもなく、大切な人を失うこともなく、命や自由を奪われることだってなかったんだから。影があたしを狙ってこなければ、村はずっと平和なままで、影の恐怖におびえながら暮らすこともなかったんだから。
 あたしが村のみんなを不幸にする。村に不幸を呼び込むあたしは、生まれてきちゃいけない祈りの巫女だったんだ。