真・祈りの巫女94
「リョウ、あんまり無粋なことは言いたくないが、そのくらいにしておけ。ユーナが神殿に帰れなくなる」
 そう、ランドが声をかけてきたから、リョウも気づいたみたい。リョウがうしろを振り返ったから、あたしもランドを見て、その向こうにタキが遠慮がちに立ち尽くしているのを見つけたんだ。
 日はだいぶ低くなってきていて、ランドが言う通り、今帰らなければ日没までに神殿にたどり着けないかもしれなかった。
「そうだな。……ユーナ、引き止めて悪かったね。タキにも謝っておいてくれる?」
 そう言ってリョウがあたしから離れていく。……このまま別れたくないよ。あたし、リョウに話したいことがまだたくさんあるの!
「リョウは悪くない! あたしの祈りが通じないのはあたしが悪いの! だからリョウが悪いんじゃないよ!」
「ユーナ……」
「だから自分の責任だなんて言わないで! あたし、もっともっと一生懸命祈るから……」
 違うよ。こんな話をしたいんじゃない。リョウには他に話さなければいけないことがあるのに ――
 リョウはちょっと悲しそうに微笑んで、判ったというように片手を挙げた。そして、ランドと一緒に歩いていく。うしろ姿を見送りながら、あたしはずっと違うって思っていたの。本当に話したいのはこんなことじゃないんだ、って。だけど、あたしはいったいリョウに何を話したかったのか、それは最後まで判らなかった。
 タキに促されて、あたしは神殿への道を歩き始めた。もうのんびり歩いていられる余裕はなかったから、2人とも黙ったまま、できるかぎり早足で坂道を登っていく。神殿前広場にはもう村人のほとんどが集まっていたから、タキは人波をかき分けてあたしを神殿まで誘導してくれたの。石段を登っているとき、守護の巫女があたしに気づいて声をかけながら近づいてきた。
「祈りの巫女、もうすぐ日が沈むわ。今更言うまでもないけど、あなたは昨日と同じようにまた祈りを捧げてちょうだい。さっき運命の巫女が未来を見て、明日から何日かは影が現われないことが判ったの。その先のことはまだ判らないけど、ひとまず今夜が最後よ」
 守護の巫女にうなずいて、あたしは神殿の扉を開けた。今度こそ、あたしの祈りを神様に届けなくちゃいけない。
 だから、その時にはもう、リョウとのことは頭の中から消え去っていた。