真・祈りの巫女95
 祈りの道具はカーヤがすべて用意していてくれた。前回と同じように祈りの準備をすすめて、呼吸を整えながら神様との距離を近づけていく。神殿の外ではたくさんの人たちがいてかなりざわついていたけれど、集中力が高まるにつれてまわりの音は聞こえなくなってくる。代わりに神様の気配が近づいてきて、あたしは神様に助けられながら、しだいに意識を拡大していった。
 村にはもうほとんど人がいなくなっていたから、あたしが拾う小さな意識はたぶん村に残った狩人たち。その中にはリョウもいるはずだけど、神様に寄り添うあたしにはもう、リョウを見分けようという気持ちはなくなっている。村に残る気配はいくぶん緊張していて、日没までのわずかな間にその緊張感は高まりを見せてくる。
 やがて、日が落ちるのとほぼ同時に、西の森から邪悪な気配が押し寄せてきた。
 今度こそ祈りの力を神様に届けなければならない。あたしは神様の気配に同調するように、邪悪な気配を退けて欲しいって、必死で祈りの力を注いだの。だけど神様は答えてくれない。神様にはあたしがここにいることが判っているはずなのに、それなのにあたしの祈りにはまったく答えてくれないんだ。
  ―― どうして? なぜ神様はこたえてくれないの……?
 あたしは祈りの巫女。人々の思いを神様に届けて、その願いをかなえるのがあたしの役割。あたしはこの災厄に対抗するために、神様によって命を授けられた。それなのに、どうして今この時、神様はあたしの祈りを聞き届けてくれないの?
 それとも、神様の力でもどうすることもできないくらい、影の力は巨大なの……?
 邪悪な気配は村の西側から徐々に侵攻してくる。以前よりも速度が遅いのは、きっと村を破壊しながら進んでいるから。村全体に拡散したあたしの意識は、影の邪悪な臭気にあてられて、目眩のような感覚に襲われた。前回のとき、あたしはきっとこの臭気のせいで意識を失ってしまったんだ。だけど今回は気を失う訳にはいかないんだって、ぐるぐる回る意識をしっかりつなぎとめようとした。
 影の意識が流れ込んでくる。邪悪な気配は1つの言葉を繰り返し紡いでいた。
  ―― 祈リノ巫女ヲ殺セ ――
 影の声を聞いたその時、あたしは今まで忘れていたことを、はっきりと思い出したんだ。