真・祈りの巫女98
 神殿の扉が開かれて、誰かが入ってくる足音がして、またすぐに閉じられた。その一瞬で現実に引き戻されたあたしは、自分が思っていたよりもずっと長い時間、独りで考え事をしていたことに気がついた。並べられたろうそくはすべて消えていたし、扉が開かれた時に一瞬だけ飛び込んできた外の様子は、それほどたくさんの人がいるようには感じなかったから。たぶん村の人たちは守護の巫女との約束を守って、影がいなくなったことを知るとすぐに村へ帰っていったのだろう。
 入ってきたのは、たぶん男の人だろうって雰囲気で判ったけど、ろうそくの火が消えた神殿では顔を見ることができなかった。天窓から月明かりが差し込むけど、今は扉付近は陰になっていて、輪郭がぼんやりと見えるくらいだったの。誰だろうって、まだあまりはっきりしない頭であたしはいぶかしんだ。でも、その人が声を出したから、すぐにあたしの疑問は解けた。
「ユーナ……」
 ランドだ。ランドの声ならあたし、子供の頃からよく知ってたから、すぐに判ったの。でも、そこで新たな疑問が浮かんだ。どうしてあたしの祈りが終わって真っ先に入ってくるのがランドなの? 本当だったら、最初にここへくるのはタキかカーヤのはずなのに。
 ランドからはあたしの姿がはっきり見えたのだろう。ゆかに直接座り込んだあたしに近づいてきて、膝を折った。……どうしたんだろう。月明かりが届いたせいでランドの顔は表情までよく見えるようになったけど、それはまるでいつものランドとは違う、何かに怯えているようにすら見えたから。
 いつも、あたしをからかったり、時には叱咤してくれた。思ったことをほとんどぜんぶ口にする人で、今まで何かを言いよどむことなんか1度もなかった。しだいにあたしもランドに巻き込まれてしまったみたい。沈黙に耐えられなくて、あたしは言ったの。
「ランド……。どうしたの? 何かあったの……?」
 ランドはあたしを見つめたまま、大きくて無骨な狩人の手をあたしの肩に置いた。
「ユーナ、落ち着いて聞いて欲しい。……オレは、おまえがこれから先もしっかり生きていける奴だって、信じてるから……」
 不安を抱えたまま、あたしがうなずくと、ランドはゆっくりと言った。
「……リョウが死んだ。ついさっき、まるで影と刺し違えるみたいにして ―― 」
 言われた言葉を、あたしは理解することができなかった。