真・祈りの巫女90
 このときのタキの行動は、あたしを両親の葬儀に出席させてくれただけじゃなくて、さまざまな効果を生み出していた。あたしが神殿に入る前、異常に興奮していた村の人たち。彼らは、あたしも村の人となんら変わるところのない1人の人間だってことを思い出して、ずいぶん冷静になってくれたみたい。守護の巫女が災厄で母親を亡くしたことをいたわる気持ちにもなってくれたから、守護の巫女の方も安心して譲歩することができたの。神殿の敷地には何も持たずにくるという条件を出すことで、守護の巫女は村人全員の避難を認めた。
 急いで支度してタキと村への坂道を歩きながら、周りに人がいない時に少しだけ話をしたの。あたしがタキの心遣いにお礼を言うと、タキは坂道で転ばないように自分の足元を見ながら答えてくれた。
「オレ自身は何か効果を狙った訳じゃないんだけどね。ただ、祈りの巫女にも1度村の様子を見てもらいたくて、だけどその許可を守護の巫女にもらうためにはあの場で交渉するしかなくて。多少守護の巫女の時間稼ぎに協力できたら、みたいな気持ちはあったんだけど、正直言って村の人たちの反応までは考えてなかったんだ。ほんと、守護の巫女はすごいと思うよ。あれだけ高ぶってた人たちの感情を祈りの巫女への同情心に変えちゃったんだから」
 もしかしたらタキは少し照れていたのかな。自分はきっかけを作っただけで、事態を収拾したのはぜんぶ守護の巫女の功績だって、しきりに強調していた。村までの道はふだんよりもずっと人の行き来が多かったから、タキとそれほど多くの話をすることもできなくて、だから会話が途切れた時あたしはふと自分の思いに沈みこんでいたの。タキが父さまと母さまの葬儀に参列させてくれたのはすごく嬉しかったけど、あたしはまだ両親の死をちゃんと整理することができなかったから。
 あの時、カーヤはあたしが両親の死を悲しんでないって言ってた。盗み聞きだったからあたしは聞き流してしまったけど、今葬儀に向かう道を歩きながら振り返って、あたしはカーヤに少しの怒りを覚えた。でも同時に、カーヤの言うことも間違ってないかもしれないって思うんだ。あたしの中に、確かに両親の死を悲しめない何かが存在しているのが判る。
 両親のこと、あたしは大好きだった。ずっとそばにいて慈しんでくれたんだもん。何か悲しいことがあって泣いていたらそっと抱きしめてくれた。あたしが危険な目にあったときには心から無事を喜んでくれた。自分が愛されているんだって、いつも感じていた。そんな両親が死んだら悲しいはずなのに、そうと聞かされてからあたしはぜんぜん悲しむことができなかったんだ。