真・祈りの巫女89
 本当はこのとき、あたしは少しだけ嘘をついていた。だって、あたしは昨日タキに言ったんだもん。マイラのお葬式に出たいんだ、って。タキにたしなめられてからは1度も口にしなかったけど、心の中ではやっぱり思ってたことがある。
 村に降りて、それきり1度も顔を合わせていないリョウ。たった1人のあたしの恋人。あたし、リョウに会いたい。本当はすぐにでも村に降りていって、リョウに会って思いっきり抱きしめてもらいたい、って。
 だけどあたしは祈りの巫女だから、神殿で祈りを捧げるのがあたしの仕事だから、村のために頑張って狩人の役目を果たしているリョウに会いに行くことなんかできないんだ。リョウだって家にも帰らないで頑張ってるのに、あたしだけわがまま言うなんてできないよ。
 周囲のざわめきが一瞬途絶えて、そのあと誰かが叫んだ。そして、周りの人たちが援護するように、異口同音に叫び始めたんだ。
「その神官の言う通りだ! 祈りの巫女を村へ行かせてやってくれ!」
「そうだ! 祈りの巫女だって人の子じゃないか! 家族を悼む気持ちはオレたちと同じだろ!」
「両親をいっぺんに失って、その葬式にも出られないなんて、そんなバカな話があるかよ!」
 そう聞いて、あたしは初めて、タキと守護の巫女が何を話していたのかを知ったの。タキ、あたしのために守護の巫女に掛け合ってくれてたんだ! あたしを、今日村で行われる父さまと母さまの葬儀に出席させて欲しい、って。
 成り行きを見守っていたあたしを見て、守護の巫女は大きなため息をついた。そして、笑いかけてくれる。
「……判ったわ。祈りの巫女、支度しなさい。葬儀が始まるまであまり時間がないわ」
「ありがとう守護の巫女。さあ、祈りの巫女、行こう!」
 村の人たちがあけてくれた道を、タキがあたしの手を引いて宿舎まで歩いていく。その間あたしはずっとあっけに取られたままだった。やがて宿舎に飛び込んだタキが不意に椅子に崩れ落ちたから、それであたしはすごく驚いたの。タキはまるで糸が切れたみたいに食卓のテーブルに突っ伏してしまったから。
「カーヤ、悪いけど水を1杯頼む。……あぁ、怖かった。まだ足が震えてるよ」
 そんなタキはおかしくて、意味不明の視線を向けるカーヤを尻目に、あたしは久しぶりに声をあげて笑ったんだ。