真・祈りの巫女88
 このときタキが何を考えていたのか、あたしは祈りを終えて神殿を出たところで半分だけ知ることになった。神殿前広場は、あたしが神殿に駆け込んだ時とは、また別のざわめきに満たされていたんだ。周囲を取り囲んだ村人たちは戸惑った様子で互いに顔を見合わせている。あたしの顔を見て更に戸惑った表情を見せて、頼んでもいないのに人ごみの中心へと道をあけてくれたの。
 あたしは少し不安に思いながらも、村の人たちがあけてくれた道を通って、騒ぎの中心に歩いていった。そして、そこで守護の巫女とタキとが言い争いをしているのを目の当たりにしたんだ。
「 ―― 祈りの巫女だって人間なんだ。人並みに悲しいこともあれば、傷つくこともある。そりゃあ、彼女には神殿での役目がいちばん大切なんだってことはオレにも判るよ。だけど1人の女の子としての感情を犠牲にして ―― 」
 その時、タキはあたしがすぐ傍にいることに気づいて言葉を止めた。状況がさっぱりわからなかった。タキはどうしてこんなところにいるの? 守護の巫女にいったい何を訴えていたの?
 タキが言葉を切ったことで、守護の巫女もあたしの存在に気がついていた。
「祈りの巫女、ちょうどいいところへきてくれたわ。あなた、村へ降りたいって、タキに言ったの?」
「祈りの巫女は何も言ってない! オレが勝手に ―― 」
「タキには訊いてないわ。祈りの巫女、どうなの?」
 守護の巫女の口調はそれほどきついものではなかったけど、目はけっして笑っていなくて、あたしは足がすくむような感じがした。周りの村人たちの視線もあたしに集中していた。今は静かだけど、あたしが一言言ったらまたさっきの怒声が浴びせられそうで、あたしはそれが怖かったのかもしれない。
「祈りの巫女である自分が神殿を離れられないのは、あたしがいちばんよく判ってる。だって、あたしの役目は村のために祈ることだもの。村に降りようなんて1度も思った覚えはないわ。だから、もちろん口に出してもいないわ」
 あたしがそう言ったとき、周りの村人たちが急に静かになって、物音1つしなくなったの。
 そして、その一瞬の沈黙のあと、不意に村人たちの気配が変わって口々に何かを叫び始めたんだ。