真・祈りの巫女86
「……タキ、村のみんなを悪く言わないで。……みんなが悪いんじゃないの。ぜんぶ、あたしの力が足りないせいなの」
 タキの言ったこと。みんなは神殿に居座るかもしれない。数に任せて貯蔵庫を占拠するかもしれない。だけどそれは、みんなが不安だからなの。そして、みんなを不安にさせてしまったのは、あたしの祈りの力が足りないからなんだ。
「祈りの巫女、何もかもが自分のせいだなんて思わないで。この災厄のすべてを君の力だけで片付けようなんて思わなくていいんだ。しょせん人間1人の力なんてたかが知れてる。祈りの巫女1人に責任を押し付けようなんて、誰も思ってないよ」
 タキは、あたしの力が足りないことに気づいていたの? もしかしたら、タキ以外のほかの神官たちも、巫女たちも……?
「今、外で守護の巫女が戦っているのを見たばかりだろう? オレが思うに、守護の巫女はああして時間を稼いでるんだ。たぶん最終的には守護の巫女も村の人たちを受け入れると思う。だけど、その決断を下すのは、影が襲ってくるギリギリの時刻になってからだ」
「……どうして?」
「村の人たちが全財産を持ってこられないようにするためだよ。みんなが身1つのまま避難してくれば、影が去ったあとは自分の家に戻るしかないからね。あとでちゃんと確認してくるけど、ほとんど間違ってないと思う」
 そうか、守護の巫女はそうして責任を取ってるんだ。あたしの祈りが神様に届かなかったその責任を。昨日、あたしが守護の巫女に祈りを頼まれた時、運命の巫女はあたしが教えてもらった未来よりも更に多くの未来を見ていたのかもしれない。あたしの祈りが神様に届かないことも、そのせいでこうした騒ぎが起こるってことも、彼女は見ていた ――
  ―― もしかして、あたしの両親が死ぬことも、運命の巫女は見ていたの……?
 そう考えればつじつまが合う。あの時、みんなが何をあたしに隠していたのか。みんな、あたしの両親が死ぬことを、あたしに隠そうとしていたんだ。
 人の寿命は決まってる。たとえあの時あたしが両親の死を知っていたとしても、あたしにはどうすることもできなかった。昨日あたしは村のために精一杯祈ったんだもん。たとえ知っていたとしても、あたしにはあれ以上の祈りはできなかっただろう。
 いちばん肝心なところで誰ひとり救うことのできない祈りの巫女は、いてもいなくても同じ存在なんだ。