真・祈りの巫女85
「……どういうこと? どうしてタキは難しいと思うの?」
「うん、ちょっと待って。オレも今考えをまとめてるところだから。……まず、村の人たちが必ずしも身1つできてくれるとは限らない。何かしらの生活必需品や、食料なんかを持ってくる可能性がある。それはたぶんどんなに規制しようとしてもできないだろうね。誰か1人がそうしたら、他のみんなも競ってそうするだろうし、結果として神殿の敷地の中では全員を収容することができなくなる」
 ……たぶんそうなるだろう。影に家を壊されると思えば、みんなぜったい持ち出したいものがあるもの。家を壊されたあと何日か生活できるだけのものは残したいと思うに違いないよ。みんなが家のものをぜんぶ持ってきたら、いくら神殿が広くたって収容しきれない。
「入れなかった人には周りの森の中に散らばってもらったら?」
「まず間違いなく不満が出るだろうね。どうして自分たちが森の中で、他の人が敷地の中なのか、って。まあ、今回は短時間のことでもあるし、仮に不満が出なかったとしても、全財産持って家を出てきた人たちは災厄が去ったあとすんなり村へは帰らないよ。最初に言い出す人がいて、すぐに全員がここへとどまるって言い始める。だけど、ここには村人全員が寝泊りする場所なんてないんだ」
 ああ、そうか。1度村の人を神殿に入れてしまえば、危険な村へは帰りたがらなくなってしまう可能性があるんだ。確かに今の段階では神殿は安全な場所だもん。だけど、やっぱり村人の命の方が大切だよ。たとえ祈りの巫女宿舎がたくさんの村人の避難場所になったって、それでみんなの命が助かるなら。
「そして、家を持っている神官や巫女たちへの不満がつのるだろうね。さっき誰かが言ってたけど、神官や巫女はこの村にとっては農作業をしない厄介者だ。村の人たちの中には、ふだんから神殿に対してそういう不満がある。その不満が爆発したら、数で劣る神殿ではもう村の人を抑えることができなくなるよ。……悪くすれば上の貯蔵庫を占拠される」
  ―― ちがう! 村の人たちが神殿に押しかけてきたのは、あたしのせいだ。
 この災厄が起こる前、村の人たちはちゃんと神殿を認めていた。神官の仕事も、巫女の仕事も、その必要性をちゃんと判ってくれていた。巫女が自分たちの暮らしをよくしてくれてるって信じてた。みんな、それが信じられなくなったんだ。
 あたしの祈りが影を追い払えなかったから、祈りになんの効果もなかったから、村のみんなは巫女を役立たずだって思ったんだ。