真・祈りの巫女77
「前の日の夜に初めて現われた影を目撃した人は、この2つ目の影がその影と同じだったような気がするって言ってた。今回現われた2つの影は、姿もかなり違っているんだけど、足跡もずいぶん違うんだ。今朝明るくなってから足跡を見て、この2つ目の影が前日に初めて現われた影と同じ足跡だったことが確認されてる。昨日この影は村の道に沿って東に進んでいって、祈りの巫女、君の家の近くまできて突然進路を変えて、君の家を踏み潰した」
 タキの言葉を聞いて、あたしは昨日自分で思ったことをまた思い出したの。影が、最初からあたしの両親を狙って現われたんじゃないか、って。今のタキの話し振りを聞いてたってそうとしか思えなかった。だって、2つ目の影は他の家には見向きもしないで、あたしの家を潰しにきたんだから。
「……最初からあたしの家族が狙われていたの? ……それとも、影はあたしがそこにいると思って、あたしを狙ってきたの……?」
 考えたくない。考え続けていたら、あたしはいずれその答えにたどり着いてしまうから。
  ―― 父さまや母さまが死んだのは、あたしが祈りの巫女として生まれたせいなんだ、って答えに ――
 タキは、あたしの問いへの答えを、既に用意していたみたいだった。
「影が獰猛なだけの獣なのか、それともなにか目的があって襲ってくるのか、今の段階ではまだ何も判ってないんだ。だから最初から君の家を狙っていたように見えても、実際は単なる偶然なのかもしれないよ。それまではただ走ることだけで満足していたのに、その時急に家を踏み潰したくなって、手近にあった家を目指したのかもしれない。オミや君の両親はすぐに家を飛び出したから、自分の家の下敷きにはならなかったけど、逃げた方角が偶然にも影の行きたい方向で、両親はたまたま影の進路に逃げてしまったのかもしれない」
 そして、オミは影に崩された別の家の下敷きになって、父さまと母さまは影に踏み潰されてしまった。
 それは確かに事実なのだろうけれど、あたしはその事実をただの言葉としてだけしか受け止めることはできなかった。
 考えたくない。それ以上考えたら、あたしは何かを認めなければならなくなる。あたしは認めることを恐れている。
  ―― 父さまと母さまの死を認めたとき、あたしはその「何か」も認めずにはいられなくなるだろう。