真・祈りの巫女79
 カーヤは持っていた荷物を床に降ろして、あたしの肩に手を置いた。
「ユーナ、あなたが謝ることじゃないわ。だって、ユーナが影を連れてきた訳じゃないもの」
 あたし、一瞬自分の顔がビクッと引きつったのが判った。
「もともと身体の弱い子だったの。そんなに長く生きないだろうとは思ってたけど、まさかこんな形で死ぬとは思ってなかった。でも、クニのことは家族みんなある程度覚悟してたから。……ユーナ、あなたに比べたら、あたしの悲しみなんてたいしたことないわ」
 ……なんだかあたし、カーヤの話すことがちゃんと聞き取れなかった。うつむいたまま動きを止めてしまったあたしを、カーヤが不審そうに覗き込む。タキも立ち上がって、あたしを覗き込んだあと、カーヤと顔を見合わせた。
「……それじゃ、ユーナ。あたしオミの様子を見てくるわね」
 あたしは返事ができなくて、カーヤはもう1度あたしの肩を叩いたあと、床の荷物を持って宿舎の奥へ歩いていく。あたしは気配だけでカーヤを見送った。 ―― だめ、深く考えたらいけない。そう、なにかに囚われそうな自分を必死で引き離していたら、タキはいつのまにかあたしのうしろにいて、あたしの両肩を引いて椅子に座らせてくれたんだ。
「祈りの巫女、やっぱり少し眠った方がいいよ。運命の巫女は今夜も影が襲ってくる予言をしてるんだから」
 椅子に崩れ落ちたあたしの前にひざまずいて、タキはあたしに微笑みかけた。それでようやくあたしはその呪縛から解き放たれたの。
「……でも、それならなおさら眠ってなんかいられないわ。あたしにはやらなければいけないことがたくさんあるんだもの」
 その時、たった今オミの病室に行ったはずのカーヤが、再び部屋から出てきたの。
「ユーナ、すぐに来て。オミの目が覚めたのよ」
 あたしは一瞬タキと顔を見合わせて、すぐに立ち上がった。そのドアまでの短い距離で急に胸がドキドキしてくる。タキもうしろからついてきてくれて、カーヤはドアを開けたままで待っててくれる。オミの怪我に触らないようにそっと顔を覗かせると、目を開けたオミは視線を天井に向けたままだったから、あたしはゆっくりとベッドに近づいていった。
 まだ目が覚めたばかりで、いくぶん混乱している風のオミは、あたしの顔を見つけるとわずかに唇の端を上げた。